薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2007年5月)

〔医薬品一般〕

Q: 婦人科で少量のアスピリンが処方されているが,目的は?(薬局)

A:

抗リン脂質抗体症候群(APS:Antiphospholipid Syndrome)に用いられる。APSは血中に自己抗体である抗リン脂質抗体が検出される自己免疫疾患で,全身性エリテマトーデスや強皮症などに合併することが多い。原因は不明で,特定疾患に指定されている。動静脈血栓症(脳梗塞,肺梗塞,四肢静脈血栓等),習慣流産,血小板減少症などを高率に起こし,その患者が妊娠した場合には流産や死産が多く,また出産しても胎児仮死や胎児発達遅延が見られ,出産後の母親の血栓症の合併も報告されている。APS患者の血栓症や子宮内胎児死亡の予防に少量のアスピリンや,塩酸チクロピジン,ジピリダモール,ワルファリン,ヘパリン等が使用される。

Q:ヘパリンは血液凝固因子の第何因子に作用するのか?(一般)

A:

ヘパリンはそれ自体には抗凝固作用はないが,アンチトロンビンL(ATL)と特異的に結合して複合体を形成し,血液凝固因子Ka(トロンビン)および,Xa,Pa,Ra,SJa,SKaなどの活性を強力に阻害する。ATLの欠乏時には効果が十分発揮されない。

Q:花粉症等の人が,果物や野菜を食べた後にアレルギー症状を起こすことがあるらしいが?(薬局)

A:

果物や野菜を摂取した数分後に,局所あるいは全身のJ型アレルギー反応を起こす花粉症やラテックスアレルギー等の患者が近年増加している。食物が直接触れた口腔・咽頭粘膜,口唇にピリピリとした異常感と浮腫性腫脹をきたす口腔咽頭症状が比較的高率に出現するため,口腔アレルギー症候群(OAS:Oral Allergy Syndrome)と呼ばれ,まれに全身蕁麻疹やアナフィラキシーショックに発展することがある。花粉やラテックス等で吸入感作や接触感作が成立した後に,感作抗原に交差反応性を有する果物や野菜を食べた際に発症するIgE抗体を介した即時型アレルギー反応であるが,従来の食物アレルギーとは成立過程が異なる。すなわち食物アレルキーはアレルギー感作が経腸管で起こるのに対し,OASは経気道あるいは経皮膚感作である。抗アレルギー薬の長期投与も行われるが,積極的な治療法はなく,原因食物を摂取しないか,加熱処理をして食べる。

表 口腔アレルギー症候群(OAS)と関連がある主な食物
抗原
食物
白樺 リンゴ,モモ,チェリー,洋ナシ,ナシ,スモモ,アンズ,イチゴ,ウメ,ビワ,アーモンド(以上バラ科果物),ヘーゼルナッツ,ピーナッツ,ブラジルナッツ,ココナッツ,クルミ,ニンジン,セロリ,ジャガイモ,キウイ,フェンネル
スギ・ヒノキ トマト
カモガヤ・マグサ・オオアワガエリ トマト,メロン,スイカ,ジャガイモ,オレンジ,セロリ,バナナ,ラテックス
ブタクサ メロン,スイカ,カンタロープ,ズッキーニ,キュウリ,バナナ
ヨモギ ニンジン,セロリ,リンゴ,ピーナッツ,キウイ,メロン
ラテックス バナナ,アボカド,クリ,キウイ,パパイヤ,マンゴー,メロン,モモ,ニンジン,リンゴ,イチジク

Q:塩酸バンコマイシン点眼液の用途は?(薬局)

A:

塩酸バンコマイシン点眼液の市販はなく,点滴静注用注射薬から0.5%点眼液を調製する(5%を用いる報告もある)。用途は他剤が無効なMRSA眼感染症で,バンコマイシン静脈投与後の眼房水内への薬剤移行性は不良のため,点眼液を調製し保険適応外使用される。

Q: 臨床検査値で,インタクトPTHとは何か?(薬局)

A:

副甲状腺ホルモン(PTH:Parathyroid Hormone)はカルシウム調節ホルモンで,84個のアミノ酸から構成されるペプチドである。完全分子型をインタクト(intact)と呼び,蛋白分解酵素によりN末端,C末端,中間型の3つのフラグメントに分解される。インタクトPTHはN末端フラグメントに生理活性を有するが,血中半減期は数分と短く,C末端フラグメントは生物学的には不活性だが,血中半減期が45〜90分と長く安定である。C末端フラグメントは腎より排泄されるので,腎不全例では高値をみることもあるが,インタクトはその影響を受けにくく,生理活性があるので現在では最もよく用いられる。ただし,不安定なので採血後直ちに測定する必要がある。
高値:ビタミンD欠乏症,原発性・続発性副甲状腺機能亢進症,慢性腎不全,骨軟化症等。
低値:ビタミンD中毒,悪性腫瘍の骨転移(高Ca血症),術後・特発性副甲状腺機能低下症等。

〔安全性情報〕

Q:妊娠したが甲状腺ホルモンを服用している。大丈夫か?(一般)

A:

甲状腺疾患は妊娠中ならびに分娩後に病態が変化し,コントロール不良時は母児に重篤な問題が発生することがあるので,母体・胎児・新生児を意識した管理・治療が必要である。甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモンの補充が不十分な場合は受胎率は低下し,妊娠後流産,子宮内胎児死亡,子癇などを生じやすい。また妊娠中期の母体の甲状腺機能低下症は児の精神運動発達遅滞を引き起こす可能性が指摘され,適切な甲状腺ホルモンの補充が必要である。甲状腺ホルモンは胎盤をほとんど通過しないので,胎児への直接の影響はない。

Q:高脂血症の患者さんがグルコサミンを服用したいと言うが,大丈夫か?(薬局)

A:

血中コレステロールおよびトリグリセリド値が上昇したという報告があるので,注意が必要である。

〔行政・保険・その他〕

Q:今月で薬局を閉めるが,麻薬が余っている。どうしたら良いか?(薬局)

A:

麻薬業務所である薬局の開設者は,業務を廃止したときは,15日以内に所有する麻薬の品名,数量等を「残余麻薬届」により都道府県知事に届け出なければならない。なお,廃止の日から50日以内であれば,所有する麻薬を麻薬小売業者の免許を持つ同一都道府県内の他の薬局等に譲渡することもできる。その場合,譲渡の日から15日以内に品名,数量,譲渡年月日,譲受人の氏名および住所等を「残余麻薬譲渡届」により,都道府県知事に届け出なければならない。また,廃棄する場合は,廃止の日から50日以内に「麻薬廃棄届」を都道府県知事に提出して,麻薬取締職員等の立会いの下に廃棄しなければならない(麻薬及び向精神薬取締法 第7条,第29条,第36条)。

Q:光化学オキシダントとは何か?どういうことに気をつけたら良いか?(薬局)

A:

光化学オキシダント(Ox)とは,工場や自動車などから大気中に排出された窒素化合物や炭化水素が紫外線により光化学反応を起こし,二次的に生成された酸化性物質(オゾン,パーオキシアセチルナイトレート,過酸化物など)の総称。陽射しが強く,気温が高く,風が弱いという気象条件が重なる日に発生しやすく,また大気中に拡散されずに停滞し,高濃度になると目がちかちかする,のどが痛いなどの健康被害が出現する。発生時は,屋外での激しい運動などは控える,症状が現れた場合は,洗眼やうがいをして室内で休む,窓を閉める等の注意をする。

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