薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2008年1月)

〔医薬品一般〕

Q: C型肝炎は夫婦間で感染するか?(薬局)

A:

HCV(C型肝炎ウイルス)は主に感染者の血液を介して感染する。病院に通っているC型慢性肝炎,肝硬変,肝がん患者150人の配偶者を調べたところ,このうち21人(14%)がC型肝炎ウイルス持続感染者(HCVキャリア)であることがわかった。また,献血時の検査で見つかった自覚症状のないHCVキャリア50人の配偶者を調べたところ,約12%が夫婦ともHCVキャリアであったという結果も得られているが,夫婦に感染しているHCVの遺伝子を調べると,そのほとんどが一致しないことがわかっている。配偶者がHCVキャリアでも,ごく常識的な日常生活の習慣を守っている限り夫婦間での感染が起こることはほとんどないと考えられる。ただし,家庭内では感染者の血液に直接触れないように注意し,歯ブラシやカミソリなどの共用はしない。

Q:福岡県内の感染症(インフルエンザ等)の発生状況を知る方法は?(薬局)

A:

感染症発生動向調査(週報)が福岡県保健環境研究所のホームページに掲載され,最新版は通常,毎週金曜日頃に更新される。

福岡県感染症情報:http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/~idsc_fukuoka/index.html

Q:肥満に使用する漢方薬は何があるか?(薬局)

A:

肥満に保険適応がある漢方薬には防風通聖散,防已黄耆湯,大柴胡湯があり,「証」に基づいて使用する。防風通聖散,大柴胡湯は,体力が充実しており,便秘ぎみでのぼせや肩こり等があり,腹部が臍を中心に充実性に膨満したいわゆる脂肪太りに用い,防已黄耆湯は色白でむくみ,多汗がみられる水太り体質に用いる。

Q:高コレステロール血症用薬のレジン類とは何か?(薬局)

A:

陰イオン交換樹脂のことで,コレスチラミン(クエストラン™)やコレスチミド(コレバイン™)がある。

Q:臨床検査値で,マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP3)とは何か?(薬局)

A:

MMP3は,主に滑膜細胞から分泌される蛋白分解酵素で,軟骨構成成分のプロテオグリカンやフィブロネクチン,M型コラーゲンなどを基質として分解する。関節リウマチ(RA)では,滑膜細胞の増殖が早期にみられ,滑膜細胞でのMMP3の分泌が関節軟骨を破壊することから,早期RA(発症1年未満)による関節破壊の予後予測の診断に用いられる。その他,全身性エリテマトーデスや糸球体腎炎などでも上昇することがある。

Q:糖尿病患者が使うSMBGとは何の略か?(薬局)

A:

自己血糖測定 Self Monitoring of Blood Glucoseの略。

〔安全性情報等〕

Q: アリルイソプロピルアセチル尿素は,どのような薬疹を起こすか?(薬局)

A:

アリルイソプロピルアセチル尿素はモノウレイド系薬で,緩和な睡眠鎮静作用を有し,鎮痛効果を高めるため,医療用医薬品や一般用医薬品の解熱鎮痛薬に配合されている。本成分による薬疹は,アレルギーによる固定薬疹の報告が多い。固定薬疹は皮膚や粘膜の同じ部位に円形から卵円形の紅斑が出現し,ときに水疱を生じ,多くはその後色素沈着を残す。固定薬疹には単発型と多発型があり,多発型では重症型のTEN(中毒性表皮壊死症)型薬疹に移行することがあるので注意が必要である。

Q:透析患者にビタミンEを投与する時,用量調節は必要か?(薬局)

A:

ビタミンEは脂溶性であるが蓄積性はなく,また透析により血清ビタミンE濃度は変化しないので,用量調節の必要はない。

Q:陥入爪・巻き爪の手術にフェノールを使いたいが,毒性は?(医師)

A:

フェノールによる手術は,局所麻酔下に巻き込んだ爪のみを切除し,爪母(爪の根)に約90%のフェノール(液状フェノール)を沁み込ませた綿棒を30秒ずつ当てて,計3〜4分間ないし術創が白色に変色するまで腐食させる。その後,無水酢酸や無水エタノール,生理食塩水などで洗浄する。フェノールは強い腐食作用があり,組織浸透性が高く,深部へ浸透して蛋白質を凝固し,組織を腐食する。
マウス経口LD50は300mg/kg,ラット経口LD50は414mg/kgで,消化管からだけでなく,経皮,吸入でも速やかに吸収され,また経口摂取よりも創面や体腔からの吸収の方が毒性が強い。接触(中毒時)したら,衣類をはぎ,皮膚に広がらないよう綿のようなものでできるだけ早く吸い取り,大量の水で洗い流す。

〔健康食品・その他〕

Q:朝鮮人参を糖尿病の患者が使っても良いか?(一般)

A:

朝鮮人参(別名:高麗人参,薬用人参,和名:オタネニンジン)は多種多様な薬理作用を有すると言われており,血糖降下作用(インスリン分泌促進,インスリン作用増強)の報告もある。経口血糖降下薬やインスリンを投与中は,血糖降下作用が増強する可能性があり,血糖値の変動に注意が必要である。

Q:セレン(セレニウム:Se)の生理作用は?(薬局)

A:

セレンは生体に必須の微量元素で,生体内でセレノシステイン,セレノメチオニンというアミノ酸としてセレン蛋白質の構成成分となり生理作用を発揮する。セレン蛋白質のグルタチオンペルオキシダーゼは,グルタチオンの存在下で過酸化水素や脂質の過酸化物を還元する。その他,蛋白質の酸化還元の調節にも関わり,生体内で抗酸化作用を示す。セレンは,魚介類,小麦食品,肉類,卵黄等に含まれており,通常の食生活で日本人が欠乏症や過剰症になる可能性は低い。欠乏症として,中国東北部の風土病(克山病)が知られており,心肥大や心筋壊死など死亡率の高い心疾患が起こる。過剰では,爪の変色・脱落,脱毛,神経症状,吐き気,嘔吐,腎不全などのセレン中毒症が起こる。必要量と中毒量の範囲が極めて狭く,サプリメント等の使用には注意が必要で,許容摂取量は400μg/日である。催奇形性や流産の恐れがあるため,妊娠中の過量摂取は避ける。がんの発生率や死亡率の抑制効果が示唆されているが,否定的な報告もあり,現時点では,はっきりしていない。

Q:睡眠薬を飲んでいるが,十分眠れない。グリシンというのが良いらしいが?(一般)

A:

グリシンは分子量が一番小さく最も単純な構造のアミノ酸である。生体内ではセリンから生合成される非必須アミノ酸で,また,ホタテ,イカ,エビなどの動物性蛋白質,とくにゼラチン,エラスチンなどに多く含まれる。グリシンはクレアチン,グルタチオン,ヘモグロビン,プリンなど生理的に重要な物質の構成成分であり,抑制性神経伝達物質のひとつとしても知られている。古くから食品添加物(調味料)として用いられ,基本的な性質は呈味作用,抗菌作用,キレート作用,緩衝作用,抗酸化作用などを有する。最近,多様な機能が注目され,健康食品などに用いられている。就寝前に摂取すると,翌日のよい目覚め感,日中の眠気の低減,深い眠りへの速やかな移行など,睡眠の質を改善する効果が報告されているが,医薬品ではない。


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