薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2008年3月)

〔医薬品一般〕

Q:l-メントールが入った止痒ローションの作り方は?(薬局)

A:

l-メントールは末梢神経の麻痺作用により止痒作用を示す。簡単なのは1〜2%エタノール溶液で,ハッカ油を用いることもある。医療機関によっては,グリセリンや液状フェノールを添加したものもある。

(処方例) エタノール300mL,液状フェノール5mL,グリセリン30mL,l-メントール10gに蒸留水を加え,全量500mLにする。

Q:カチリとは何か?(薬局)

A:

フェノール・亜鉛華リニメントのこと。フェノールのことをカルボールとも称するので,別名「ルボールンクニメント」を略してカチリと言う。

Q:胃を全摘した人は,経過を見ながら数年後にはビタミンB12の注射をする必要があるらしいが,どうしてか?(一般)

A:

ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌される糖タンパクの内因子と結合し,回腸で吸収される。したがって胃全摘後は内因子が欠乏して,ビタミンB12の吸収低下が起こる。ビタミンB12は造血ビタミンのひとつで,欠乏すると赤血球の合成に支障をきたし貧血(特に巨赤芽球性貧血)を起こすので,ビタミンB12の注射が必要となる。ただし,胃を全摘してもビタミンB12は肝臓にある程度は貯蔵されているので,不足は数年後に生じることが多い。

〔安全性情報等〕

Q:ミルク・アルカリ症候群の症状は?(薬局)

A:

大量の牛乳(カルシウム)やカルシウム製剤と炭酸カルシウムや酸化マグネシウム等の制酸薬を併用した症例に発症し,高カルシウム血症,高リン血症,高窒素血症,アルカローシス,異所性石灰化および腎不全などを主徴とした病態である。臨床症状として,吐き気,嘔吐,頭痛,多飲,昏睡などが生じ,また角膜や腎に異所性石灰化を認める。発現機序は不明だが,血清カルシウム濃度の上昇と,血清pHの上昇が示唆されている。

Q:パーキンソン病の患者に注意を要する薬剤には,抗ドパミン作用を有する抗精神病薬の他には何があるか?(薬局)

A:

パーキンソン病ではドパミンが欠乏するためにアセチルコリン神経系に対する抑制作用が低下し,相対的にアセチルコリンの活動が強まる。したがって副交感神経刺激薬(コリン作動薬)のサラジェン™(ピロカルピン),エボザック™・サリグレン™(セビメリン),ベサコリン™(塩化ベタネコール)などは禁忌となる。また,コリンエステラーゼ阻害薬のウブレチド™(臭化ジスチグミン),メスチノン™(臭化ピリドスチグミン),マイテラーゼ™(塩化アンベノニウム),ワゴスチグミン™(臭化ネオスチグミン),アリセプト™(ドネペジル)なども注意を要する。

Q:眠気の少ない抗ヒスタミン薬には何があるか?(薬局)

A:

ヒスタミンは脳内では覚醒を保つ神経伝達物質で,抗ヒスタミン薬は脳内ヒスタミン受容体に作用して,眠気やふらつきなどを起こす。眠気には個人差があり,内服を続けていると消失する傾向にある。脳内ヒスタミンH受容体占拠率が低い非鎮静抗ヒスタミン薬では眠気は少なく,アレグラ™(フェキソフェナジン)とクラリチン™(ロラタジン)の添付文書には,車の運転や機械の操作についての注意の記載がない。

Q: フェニトインの経口中毒量と中毒症状は?(薬局)

A:

成人経口中毒量は20mg/kg以上,成人経口推定致死量は2〜5g。有効血中濃度は10〜20μg/mL(成人,強直間代発作)で,血中濃度を測定して用量を調節する。中毒症状は血中濃度と相関し,血中濃度が20μg/mL以下では中毒症状は現れない。20μg/mL以上では水平・回転性の眼振,25〜30μg/mLでは小脳性の運動失調や歩行失調・歩行困難,構音障害,さらに進むと脳波の徐波化,精神機能の低下がみられ,40μg/mLでは傾眠・意識障害が出現する。主な中毒症状は中枢神経,特に小脳前庭障害で,小脳失調,眼振,眼筋麻痺,反射亢進,構音障害,過度屈曲,嗜眠,言語不明瞭,悪心・嘔気・嘔吐等がみられる。昏睡状態になり,呼吸障害,血管系の抑制により死亡することもある。ジスキネジア,舞踏病等の不随意運動が四肢・躯幹・顔面に出現することがある。さらに痙攣や一過性の片麻痺,精神機能の低下,抑うつ状態,行動異常,自発性低下や発作の増悪を見る場合もある。

Q:1歳児が朱肉を食べたが,毒性は?(医師)

A:

朱肉には練朱肉と事務用朱肉の2種類あり,一般的に事務用朱肉が多く使われている。練朱肉は油(ヒマシ油,白蝋,松油)と顔料(色素)を練ったものを植物繊維に染み込ませ,泥状にしたもので印泥とも呼ばれる。事務用朱肉は植物油,合成樹脂,顔料(色素)を朱油とよばれるインキ状にしたもので,フェルトまたはスポンジに染み込ませ,表面の布は綿布が使用されている。顔料には有機顔料(無水フタル酸,尿素など),無機顔料(赤色酸化第二鉄,モリブデンレッド)が使用されるが,古いものや中国製には,水銀やカドミウムなどの有毒な重金属を含む無機顔料を使用しているものもある。1g/kg程度の誤食では中毒症状は起こらず処置は必要ない。大量では嘔吐,腹痛,下痢の可能性がある。重金属を含む朱肉では,大量の場合,個々の重金属中毒症状を考慮する。

〔その他〕

Q:S-アデノシルメチオニンとは何か?(一般)

A:

S-アデノシルメチオニン(S‐adenosylmethionine,SAMe)は,肝臓などに存在するメチオニン活性化酵素の作用によりATPとメチオニンから合成される生体内物質で,活性メチオニンとも呼ばれる。主に肝臓や脳に多く,メチル基の転移反応に関与する補酵素で,核酸,リン脂質,ホルモンなどの合成に利用される。「肝機能を維持する」,「うつによい」,「痛みや炎症を抑える」と言われ,急性・慢性肝炎,アルコール性肝炎,うつ病や変形性関節症に対する有効性が示唆されているが,医薬品としての市販はない。

Q:JGSPとは何か?(卸)

A:

(社)日本医薬品卸業連合会が策定した「医薬品の供給及び品質管理に関する実践規範:Japanese Good Supplying Practice」の略。医薬品の保管や出荷,配送にあたって,各段階で温度・湿度,日光の影響などにより品質が損なわれないよう,品質の安定性を守るための業界内の自主規範である。

Q:AHCCとは何か?(薬局)

A:

Active Hexose Correlated Compound(活性化多糖類関連化合物)のこと。担子菌(キノコ類)の菌糸体抽出物の機能性食品で,アセチル化α-グルカンを主成分とする。免疫力強化やがんに効くと言われているが,効果や安全性等に関する十分なデータはない。



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