薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2008年11月)

〔医薬品一般〕

Q: セアカゴケグモに咬まれた時の治療に使う抗毒素血清はあるか?(薬局)

A:

日本では市販されていない。国内ではウマに免疫して作製したオーストラリア製のセアカゴケグモ抗毒素血清を輸入し,国立予防衛生研究所(東京),三重県立総合医療センター,大阪府立病院,沖縄県立中部病院に配備されている。また自治体によっては独自に配備している所もあり,福岡市では2008年11月,市立こども病院・感染症センターに配備した。
セアカゴケグモの毒の主成分は神経毒α-ラトロトキシンで,咬まれた時の症状は,局所の疼痛(初期の疼痛は数分で治まるが,時間の経過とともに四肢全体に拡がる),発汗,熱感,痒感,紅斑,硬結をきたし,所属リンパ節が腫張する。症状のピークは3〜4時間で,数時間から数日で症状は軽減するが,ごく一部に嘔吐,めまい,頭痛,脱力,筋肉痛,不眠などの全身症状が数週間継続することがある。健康な成人では生命に関わることはなく,また重症例もほとんどないが,小児や高齢者の場合は血圧上昇などの循環器症状や呼吸困難を呈して重症化し,積極的な治療が必要となる可能性がある。
咬まれたら直ぐに温水や石鹸水などで傷口を洗い,余分の毒を洗い落とし,それぞれの症状に応じて対症療法を行う。咬傷部位をアイスパックで冷やすと痛みは軽減するが,包帯等で強く圧迫すると増強するので勧められない。局所症状だけの場合,抗毒素は必要ないが,全身症状が発現している場合には,できるだけ早く抗毒素を投与する。
ウマ血清を使用しているので,アナフィラキシー反応の発生を考慮し必ず過敏症テストを行い,抗ヒスタミン薬とアドレナリン注射薬を前投与する。咬まれて1週間経過後も有効で,通常1時間以内には顕著な効果が現れる。

Q:アルツハイマー型痴呆に用いるアリセプト™(ドネペジル)と同じ作用を有する薬剤はあるか?(薬局)

A:

ドネペジルはアルツハイマー型痴呆の中核症状(記憶障害など認知障害)に使用されるコリンエステラーゼ阻害薬である。記憶に関係する神経伝達物質アセチルコリンの分解を抑制してアセチルコリン神経系の働きを強めて記憶・認知機能を改善させる。欧米ではコリンエステラーゼ阻害薬として,ドネペジルの他にタクリン,リバスチグミン,ガランタミンが使用されているが,本邦ではまだ市販されていない。リバスチグミンはノバルティスファーマ・小野薬品,ガランタミンはヤンセンファーマが臨床試験中である。

Q:高尿酸血症に用いるキサンチンオキシダーゼ阻害薬で,ザイロリック™(アロプリノール)以外に新規の薬剤はないか?(薬局)

A:

非プリン型選択的キサンチンオキシダーゼ・キサンチンデヒドロゲナーゼ阻害薬で,1日1回の服用で尿酸低下作用を示すフェブキソスタット(febuxostat)を帝人ファーマが再申請準備中(追加試験実施)である。軽・中等度の腎機能低下患者での用量調節が不要。

Q: 外国人がXyzal™という鼻炎の薬を使いたいらしいが,日本で市販はあるか?(薬局)

A:

Xyzal™(サイザル)は成分レボセチリジンの抗ヒスタミン薬で,日本での市販はない。セチリジン(ジルテック™等)の光学異性体で,セチリジンの2倍のH-受容体親和性を持ち,即効性で,欧米では季節性・通年性アレルギー性鼻炎,慢性特発性蕁麻疹に使用されている。

Q:2008年度のインフルエンザワクチン株は?

A:

Aソ連型:A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007(H1N1),A香港型:A/Uruguay(ウルグアイ)/716/2007(H3N2),B型:B/Florida(フロリダ)/4/2006。

Q:白内障の患者にはどんな点眼薬が推奨されるか?(薬局)

A:

白内障の根本治療は手術であり,点眼薬には症状改善効果や視力回復効果はない。白内障が日常生活に支障がない段階の時に,初期の加齢性白内障の進行抑制のためにカタリン™(ピノレキシン)やタチオン™(グルタチオン)等の点眼薬が用いられるが,十分な科学的根拠がないため,インフォームド・コンセントを得た上で使用することが望ましい。

Q: 尿検査で円柱とは何か?(薬局)

A:

円柱(cast)は,遠心分離した尿の沈殿物を顕微鏡で見る尿沈査の検査項目の1つで,円柱の出現は腎実質障害が強く示唆される。尿が尿細管に停滞した場合に,尿細管から分泌されるTamm-Horsfallムコ蛋白と少量の血清アルブミンが結合して産生される。正常尿中には通常認められないが,円柱の中でも硝子円柱は,運動や入浴後などの健常者尿中に少量認められることがある。上皮円柱と顆粒円柱は尿細管病変,赤血球円柱は腎実質の出血,白血球円柱は腎実質の炎症,脂肪円柱はネフローゼ症候群,ろう様円柱と巨大円柱は重症腎障害に認められる。空胞変性円柱は糖尿病腎症,IgA腎症で認められる。

Q:ブロムワレリル尿素は名称が変更になったのか?(薬局)

A:

15改正日本薬局方における日本名変更により,ブロムワレリル尿素からブロモバレリル尿素に変更になった(平成18年3月31日 厚生労働省告示第285号)。なお,旧名は日本名別名として記載されている。

〔安全性情報〕

Q:ドグマチール™(スルピリド)を服用している患者が月経不順(無月経)になったというが?(薬局)

A:

スルピリドの抗ドパミン作用により乳汁分泌ホルモンのプロラクチン放出が促進され,高プロラクチン血症となるため,排卵障害により月経異常を起こすことがある。

Q:永久染毛剤の人体への影響は?(薬局)

A:

永久染毛剤による副作用は,成分の酸化染料,特にパラフェニレンジアミン(PPDA)によるアレルギー性接触皮膚炎が多く,成分パッチテストにより原因物質を特定する必要がある。また,同じ染毛剤を使用し続けるとアナフィラキシーショックを起こすこともある。近年,永久染毛剤の副作用として成人の急性白血病,リンパ腫,膀胱がんの発症リスクが高くなることが報告されているが,統計学的に検討した結果,発がん作用がなく安全であるとの報告もあり,さらなる検討が必要である。

〔その他〕

Q:視覚障害者への服薬指導用のグッズはあるか?(薬局)

A:

薬袋などに貼る点字などのシール〔サンマーク,サンシール(丸三信堂:011-611-3459),指しるべ(大洋社:03-3503-3656),お薬服用識別シール(大阪府薬剤師会・大阪府視覚障害者福祉協会)〕や点字ができるラベルライター「テプラ」PRO SR6700D(キングジム:0120-79-8107)等がある。



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