薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2010年4月)

〔医薬品一般〕

Q:低リン血症を経口摂取で是正するには何が良いか?(薬局)

A:

牛乳やチーズがリンを多く含むが,脂肪含有量が多いと下痢をすることがあるので,スキムミルクや低脂肪ミルクが良い。また中性リン酸塩の水溶液を調節して投与することもある。ただし,リンの消化管からの吸収は種々の要因で変動しやすいので,高カロリー輸液や脂肪乳剤などの経静脈的投与が推奨される。

Q:ペニシリンアレルギーでアモキシシリンが使用できない場合のヘリコバクター・ピロリ除菌療法は?(薬局)

A:

ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の基準治療は,プロトンポンプ阻害薬(PPI),アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤併用である。ペニシリンアレルギーの人にはアモキシシリンは使用できないが,現時点ではペニシリンアレルギー患者への除菌プロトコルは確立されていない。保険適応外使用であるが,PPI+メトロニダゾール+ミノサイクリンやPPI+メトロニダゾール+レボフロキサシンを用いることがある。

Q: 乾癬の治療にメトトレキサートを使用することがあるか?また,外用剤はあるか?(薬局)

A:

メトトレキサートは葉酸拮抗薬で,主として増殖の盛んな細胞周期S期の細胞に作用し,DNA合成を阻害して免疫抑制作用を発揮する。乾癬では表皮のケラチノサイトのDNA合成が亢進しており,そのDNA合成を抑制し皮疹をェ解させると考えられ,重症の難治性乾癬や関節性乾癬に使用することがある。欧米では一般に用いられているが,日本では保険適応外使用である。用法は週に1回2mgまたは2.5mgを12時間ごとに3回服用,その後5日間休薬し,このサイクルを1週間毎に繰り返す。肝機能障害,骨髄抑制,間質性肺炎など重篤な副作用に注意する。海外では0.25%,1%ゲル剤の臨床試験が行われている。

Q: 皮膚科でスポロトリコーシスと診断されたらしいが,どんな疾患か?(薬局)

A:

スポロトリコーシスは深在性皮膚真菌感染症の一つで,土壌や枯木など自然界に広く存在するSporothrix schenckii の感染により発症する。高温・多湿の地方に多く日本では北関東や九州・四国,特に河川流域で,土と接触する機会の多い農業従事者や幼小児に多い。人から人への感染は原則としてない。擦過傷や切傷などの小外傷等を介して真皮内に侵入し,侵入部位に数週間〜数ヶ月の潜伏期間を経て初発病巣が形成される。紅色丘疹〜結節ないし皮下結節で,次第に増大し中央が破れて潰瘍化する。痛みなどの自覚症状はない。主な病型に皮膚リンパ管型と皮膚固定型があり,顔面と上肢が好発部位である。通常は自然治癒せず数年にわたり進行する。ヨウ化カリウムが第一選択薬で,成人の場合,初回1日0.3gより開始し,1〜2週間隔で漸増,1日1.0〜1.5gを2〜3回に分服する(保険適応外使用)。また抗真菌薬のイトラコナゾールやテルビナフィンも使用される。S. schenckii は39℃以上では発育しないことを利用して,内服できない場合等は使い捨てカイロなどを1日数時間,患部に圧抵する方法,あるいは経口剤との併用により治療期間を短縮することが可能である。

Q:眼圧が19mmHgで緑内障と診断された。目薬を点眼しないといけないのか?(一般)

A:

眼圧の正常値は10〜21mmHg だが,健常眼圧は個人によって異なる。健常眼圧とは,個々の眼において眼内組織に障害を及ぼさない眼圧のことで,正常範囲内でも健常眼圧を超えて視神経を圧迫すると視神経の萎縮が進行し,緑内障と同様に視野が狭窄する(正常眼圧緑内障)。正常眼圧緑内障は通常の緑内障に比べ進行は遅いが,一度狭窄した視野は回復しないので,点眼薬により眼圧をコントロールする必要がある。この疾患は近視の患者に多い傾向がある。

Q:整腸剤や便秘薬で,納豆菌を配合した医薬品はあるか?(薬局)

A:

医療用では消化酵素生菌剤でドライアーゼ™ 配合細粒(マイラン),コンクチームN™ 配合顆粒(エムジー=共和)がある。一般用ではインナーバランス™(日東),コンチーム™ 錠(日東),ザ・ガードコーワ™ 整腸錠(日東),サトラックス™ ビオファイブ(佐藤),パンシロン™ N10(ロート),バンラクミン™ プラス(第一三共ヘルスケア),ファイバコート™ α(日水),ベクニス™ ソフト(近江兄弟社),フェカルミンゴールド™ 錠,フェカルミンスリー™ E顆粒・「分包」(エバース・ジャパン)等がある。

〔安全性情報〕

Q: 患者がパラベンに過敏と言うが,パラベンとは何か?(薬局)

A:

パラベンとは,パラヒドロキシ安息香酸エステルまたはパラオキシ安息香酸エステルとも呼ばれ,微生物汚染を防ぐ防腐剤として,食品,化粧品,医薬品に広く使用されている。パラベンには,メチルパラベン,メチルパラベンナトリウム,エチルパラベン,エチルパラベンナトリウム,プロピルパラベン,プロピルパラベンナトリウム,ブチルパラベン,ブチルパラベンナトリウム,イソプロピルパラベン,イソブチルパラベン,ベンジルパラベンがある。抗菌活性はベンジル>ブチル>プロピル>エチル>メチルの順に強く,メチルパラベン,エチルパラベン,プロピルパラベン,ブチルパラベンがよく使用されている。

Q: 前立腺特異抗原PSA値に影響する薬剤はあるか?(一般)

A:

抗アンドロゲン薬(クロルマジノン酢酸エステルなど),5α - 還元酵素阻害薬(デュタステリド,フィナステリド)はPSA値を低下させるため前立腺がんを隠蔽する可能性がある。また,セレコキシブ,シロドシンはPSA値増加の副作用報告がある。

〔行政・保険〕

Q:一部負担金の支払いがない患者にも明細書の発行が必要か?(薬局)

A:

一部負担金等の支払いがない患者については,明細書発行の義務はないが,明細書発行の趣旨を踏まえ,可能な限り発行するのが望ましい。

Q:特定薬剤管理指導加算の特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)に精神神経用剤である抗パーキンソン病薬は該当するか?アマンタジン塩酸塩は入っているが?(薬局)

A:

現在,精神神経用剤で薬効分類が117の医薬品が対象となっている。抗パーキンソン病薬の薬効分類は116でハイリスク薬には該当しない。アマンタジン塩酸塩は117および116の両方を有している。

Q:医療機関で血糖自己測定器加算を算定している患者に,薬局で測定機器を販売してもらえないかと医療機関から依頼があったが?(薬局)

A:

血糖自己測定器加算は,インスリン製剤またはヒトソマトメジンC製剤の在宅自己注射を毎日行っている患者のうち血糖値の変動が大きい者に対して,医師が,血糖のコントロールを目的として当該患者に血糖試験紙または固定化酵素電極を給付し,在宅で血糖の自己測定をさせ,その記録に基づき指導を行った場合に,在宅自己注射指導管理料に加算するものである。血糖試験紙,固定化酵素電極,穿刺器,穿刺針および測定機器などの血糖自己測定に係るすべての費用は所定点数に含まれ,別に算定することはできず,医療機関から給付または貸与される。


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