薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2010年5月)

〔医薬品一般〕

Q:三叉神経痛に消炎鎮痛薬(NSAID)が処方されているが,効果はあるか?(薬局)

A:

三叉神経痛の薬物療法においてNSAIDは無効で,抗けいれん薬が有効である。第一選択薬はカルバマゼピンで(保険適応),その他にフェニトイン,バルプロ酸ナトリウム,クロナゼパムなどが三叉神経脊髄路内の興奮性シナプス伝達を抑制し,疼痛発作を緩解させる目的で用いられる。作用機序は明確でないが,@Naチャネルの遮断による末梢および中枢の発作性異常放電や異常興奮伝導の抑制,Aノルアドレナリン再取り込み阻害により下降性疼痛抑制系を賦活し,脊髄後角での発痛関連物質の遊離・放出の抑制,B抑制系神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)合成酵素賦活,分解酵素抑制によるGABA抑制作用の増強,などが考えられる。その他中枢性筋弛緩薬のバクロフェン等が用いられる。

Q:クレメジン™細粒が飲みにくいと患者が言うが,どうしたら良いか?(薬局)

A:

尿毒症物質を吸着・排泄する球形吸着炭のクレメジン™細粒等は慢性腎不全に用いられるが,飲みにくい。その対策としては,@最初に一口水を含み,細粒を口の中に入れ,一気に飲み込む,A水が入ったコップに細粒を入れ,コップを回して細粒を拡散させて一気に飲み込む。さらに水を入れて,残った薬を飲み込む,Bカプセルに変更,などがある。また,嚥下補助食品のゼリー状オブラート(三和化学),お薬飲めたね(龍角散),トロメリン顆粒(三和化学)を用いた服用で,クレメジン™細粒の尿毒症物質の吸着除去率を変えずに患者コンプライアンスが向上した報告がある。

Q: めまいに伴う悪心・嘔吐に,抗ヒスタミン薬が処方されるのはなぜか?(薬局)

A:

めまいの際には前庭自律神経反射に基づき悪心・嘔吐が生じるが,前庭自律神経反射は前庭系刺激が脳幹の嘔吐中枢のヒスタミンH受容体を介して伝達される。したがって抗ヒスタミン薬のジメンヒドリナート等は制吐作用を示し,前庭性嘔吐の抑制に用いられる。

Q: 掌蹠膿胞症とは?どんな治療法があるか?(薬局)

A:

掌蹠膿胞症(Pustulosis Palmaris et plantaris)は,寛解と増悪を繰り返す慢性の皮膚疾患で,中高年に多く,ほとんどは3〜7年で自然治癒する。通常皮疹が手掌および足底に左右対称性に,1〜5mmの小水疱や小膿疱を生じ,最終的に痂皮となって剥がれ落ち,これを繰り返すうちに皮膚の過角化が進み鱗屑を形成し亀裂を生じる。痒みを訴える場合もあり,胸肋骨鎖骨間骨化症,胸鎖関節部の腫脹・疼痛が特徴的である。原因は不明だが,病巣感染(扁桃炎や歯周病,時に副鼻腔炎,中耳炎)がきっかけで遠隔臓器に二次的炎症を起こしたり,金属アレルギー(歯科金属に対するアレルギー)が誘因となる例があり,喫煙との因果関係も指摘されている。原因として病巣感染が疑われる場合はその治療を行い,金属アレルギー関与の場合は歯科金属の除去を行う。治療薬剤は副腎皮質ステロイド外用薬,高濃度活性型ビタミンD外用薬のマキサカルシトール(オキサロール™軟膏・ローション),タカルシトール(ボンアルファ™クリーム)等が主体で,亜鉛華単軟膏,サリチル酸ワセリンも使用する。難治例では内服薬エトレチナート(チガゾン™),シクロスポリン(ネオーラル™),副腎皮質ステロイド(短期間使用)や,紫外線療法を行う。ビオチンの内服療法も行われるが,未だ確立したものではない。

Q:多汗症の治療方法は?(薬局)

A:

多汗症は日常生活に支障をきたすほどの発汗で,青年期に多く成長とともに軽快することが多い。全身性と局所性があり,手掌,足底,腋窩の局所性多汗症が多く,全身性多汗症では基礎疾患に留意する。局所性多汗症では,制汗外用剤の20%塩化アルミニウム液(保険適応外)や,2〜10%硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)液,医薬部外品では,アルミニウム含有のテノール™液,オドレミン™,エキシウ™クリーム・スプレー等を使用する。アルミニウムは収れん作用を有し,汗腺の導管部が収縮して制汗作用を示し,さらに防臭作用も有する。難治例では水道水イオントフォレーシスやボツリヌス毒素局注,胸腔鏡下交感神経遮断術も行う。

Q:レビー小体型認知症とは?(薬局)

A:

レビー小体型認知症(DLB:Dementia with Lewy Bodies)は,進行性の認知機能障害に加えて,パーキンソニズムと特有の精神症状(幻視,錯視,人物・場所の誤認,抑うつ,被害妄想等)を示す変性性認知症疾患である。これらの症状に年単位で先行して,夜間睡眠時に悪夢を伴う大声や体動を示すREM睡眠行動異常が高い頻度でみられる。主として50歳〜70歳台の初老期ないし老年期に発症し,男性に多い。病理学的には,大脳と脳幹の神経細胞脱落とレビー小体(中枢および末梢の神経細胞に出現する円形・好酸性の細胞内封入体)の出現を特徴とし,パーキンソン病(PD:Parkinson's disease)と共通点をもっている。従来のびまん性レビー小体病(DLBD:Diffuse Lewy body disease)を含むがより幅の広い概念で,老年期の変性性認知症疾患ではアルツハイマー型認知症(ATD:Alzheimer-type dementia)に次いで2番目に多い。

Q: ストロメクトール™錠を空腹時に服用と指示されたが,なぜか?(一般)

A:

疥癬や腸管糞線虫症に用いられるストロメクトール™錠の成分イベルメクチンは脂溶性物質である。高脂肪食により血中薬物濃度が上昇する恐れがあるため,空腹時に水のみで服用する。

〔安全性情報等〕

Q: シミに使用されるハイドロキノン軟膏を妊婦に使用して良いか?(医師)

A:

ハイドロキノンはチロシナーゼの作用を抑えてメラニン生成を抑制する。FDAの薬剤胎児危険度分類基準ではC(動物生殖試験では胎仔に催奇形性,胎仔毒性その他の有害作用があることが証明され,ヒトでの対照試験が実施されていないもの,あるいは,ヒト,動物ともに試験は実施されていないもの)に分類され,潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合のみ使用する。局所投与は恐らく低リスクとの評価もあるが,ヒトでの胎盤通過,局所投与の体内動態は不明なので避けた方がよい。

Q:授乳婦へ投与可能な薬剤を調べるホームページはあるか?(薬局)

A:

妊婦・授乳中の服薬に関する情報機関「妊娠と薬情報センター」(厚生労働省事業)のホームページ(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/ok.html)に,授乳中に使用しても問題ないとされる薬の代表例の一覧がある。

〔行政・保険〕

Q:平成22年4月より処方せん様式の変更で,都道府県番号などの欄が追加された理由は?(薬局)

A:

従前の処方せんおよび調剤レセプトには,処方せんを発行した保険医療機関コード等の記載がなく,保険者が調剤レセプトと医科レセプト・歯科レセプトとの突合に手間がかかった。このため,「都道府県番号」「点数表番号」「医療機関コード」の欄を設けることとなった。なお,平成22年9月30日までは経過措置期間で,これらの記載は省略可能である。


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