薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2010年7月)

〔医薬品一般〕

Q:CKD(慢性腎臓病)におけるRAS(レニンアンジオテンシン系)抑制の意義は?(薬局)

A:

高血圧は,CKDの進展および心血管疾患発症の危険因子である。RAS抑制薬(ACE阻害薬,ARB)によりRASを抑制すると,降圧効果だけでなく,糸球体内圧の低下作用とそれに引き続く尿タンパク減少効果,糸球体硬化病変の進展抑制など腎保護作用を示し,CKD進展を抑制するとともに,心血管疾患の合併を予防する。ただし,タンパク尿を伴わないCKDに対するRAS抑制薬の腎保護作用は確立していない。投与時は,血清クレアチニン値や血清カリウム値の急激な上昇に注意する。

Q:双極性障害(躁うつ病)でデパケン™Rをもらったが,抗てんかん薬らしい。てんかんではないので飲みたくない。(一般)

A:

デパケン™R(バルプロ酸ナトリウム)は抗てんかん薬および躁病・躁うつ病の躁状態の治療薬である。双極性障害(躁うつ病)には気分安定薬(mood stabilizer)として,そう病相,うつ病相,維持療法期を通じて用いられ,気分の激しい浮き沈みを調整する。気分安定薬には他にも,炭酸リチウム,カルバマゼピンなどが使用される。

Q: 中心静脈カテーテル留置に用いられるCVポート(CVリザーバ)とは何か?(薬局)

A:

中心静脈から薬剤を体内に反復して注入する必要がある場合カテーテルを留置しておくが,カテーテル端末が体の外に出ていると煩わしく,接触皮膚炎,カテーテル感染等の問題があり,CVポート〔皮下埋込型薬液注入システム(静注用)〕が用いられる。親指の頭大の円盤状の医療機器で,体内に留置されたカテーテルに接続して皮下に埋め込まれる。
CVはCentral venous(中心静脈)の意味で,ポートの中央部(セプタム)はシリコンゴムでできており,体外から針を刺して薬剤を注入すると,カテーテルから上大静脈に薬液が送られる。CVポートは一般に前胸部か上腕部等の皮下に埋め込む。利点として,@ 皮膚の上から確実に薬剤を静脈内に投与可能,A 血管外漏出のリスクが少なく安静を保つ必要がない,B 不使用時の特別な処置や管理が不要,C 多くのCVポート用カテーテルの材質は抗血栓性の高いシリコンやポリウレタンで先端に逆流防止弁が付き,ヘパリンロックは不要(生食をフラッシュするのみ。上腕部の場合はカテーテル径が細く逆流防止弁付のシステムはないのでヘパリンロックが必要)。

Q: 新幹線でトンネルを通る時に耳が痛くなるが,予防薬はないか?(一般)

A:

飛行機の上昇・下降時(とくに下降時)や新幹線でトンネルを通過する時に,耳痛や詰まった感じがするのは急性中耳炎で,航空性中耳炎と言う。これは中耳と鼻咽腔を連絡している耳管の換気機能が低下し,急激な気圧の変化に対応できず,中耳腔の圧と大気圧との圧の不均衡になるために起こる。通常はつばをのむ,ガムを噛む,飴をなめる等で症状は軽減される。風邪,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎などは耳管の機能が低下して悪化しやすい。予防薬として鼻・咽頭症状の改善に,抗ヒスタミン薬や点鼻薬,抗生物質等を用いる。

Q:十薬(ドクダミ)を鼻炎に使いたいが用法は?(薬局)

A:

ドクダミの花期の地上部を十薬といい,便通薬として,あるいは慢性皮膚疾患に利尿・消炎の目的で煎用される。また古くから民間薬として毒下しとして用いられている。蓄膿症や鼻炎には,十薬20gを水600〜800mLに加え,約半量に煎じて服用や,慢性鼻炎に生葉汁の鼻腔内塗布等が行われている。

Q:爪白癬治療で経口抗真菌薬(イトラコナゾール等)の内服以外の治療法は?(薬局)

A:

爪には血流がなく,外用薬を普通に用いても効果はないので爪削り療法が試みられている。表在性白色爪真菌症の場合,白癬菌が爪表層のみに存在し,外科的に白斑部を削れば容易に治癒することが多い。金属製の大きなヤスリで白濁した爪の硬い爪甲部を削り取り,その下のガサガサした白い部分(白癬菌で白く脆くなった爪)もできるだけ削り取り,そこに1日2回液体状の外用薬をたっぷり染み込ませ,場合によってその上からラップなどを被せて密封する。全治するには半年〜1年かかるが,副作用の心配はほとんどない。また40%尿素軟膏で爪甲を除く方法もある。 

Q:消毒薬で過酢酸の作用機序は?(薬局)

A:

過酢酸(CH3COOOH)は,過酸化水素の1個の水素がアセチル基で置換された構造で,酸,過酸化物としての性質の他にアルコールとしての性質も併せ持つ。高水準消毒薬で,医療用具(内視鏡)の消毒に用いる。グラム陽性・陰性菌,結核菌,真菌,ウイルスに加え細菌芽胞にも有効である。作用機序は明確でないが,ヒドロキシラジカルの生成による細胞の蛋白変性と,それに基づく輸送の阻害,代謝の必須酵素の不活化,細胞膜とその透過性の破壊,核酸の変性・破壊などが示されている。取り扱いには蒸気への曝露・付着に注意し,換気の良い場所で,エプロンと手袋,マスクを着用する。

Q: 慢性膵炎の時の食事で注意することは?(一般)

A:

慢性膵炎の病期により異なるが,いずれの病期においてもアルコールは厳禁である。代償期は膵外分泌を刺激する脂肪摂取は腹痛発作の要因となるので,脂肪摂取量は1日30g以下に抑える。脂肪制限に伴うカロリー不足分は糖質で補い,ビタミン,ミネラル不足に注意する。味付けは薄めにし,香辛料,カフェイン飲料,炭酸飲料も膵外分泌を刺激するので制限する。非代償期では厳密な脂肪制限は不要である。1日40〜60gを目安とし,消化吸収障害や膵性糖尿病による低栄養状態に注意する。

Q:七味唐辛子の内容物から,麻薬や大麻ができるのか?(その他)

A:

七味唐辛子には,山椒の実,ケシの実,陳皮,ゴマ,シソの実,麻の実等が入っている。ケシの実および麻の実は加熱・発芽防止処理が施されており実を蒔いても栽培できないため,麻薬や大麻はできない。

〔行政・保険〕

Q:薬価算定に導入された,新薬創出・適応外薬解消等促進加算とは何か?(その他)

A:

新薬創出・適応外薬解消等促進加算とは,革新的な新薬や適応外薬の開発等を促すために平成22年度の薬価基準制度に限り試行的に導入された。下記の要件を全て満たす新薬の市場実勢価格に基づく算定値に対して加算され,実質的に薬価引き下げが猶予される。

〔要件〕
@ 薬価収載後15年以内で,かつ後発品が収載されていないこと。
A 市場実勢価格と薬価との乖離率が,薬価収載されている全医薬品の平均を超えないこと。
B 再算定対象品でないこと。
C 内用配合剤の算定の特例の要件を満たさないこと。

Q:排卵日検査薬が薬局でないと購入できないのはなぜか?(その他)

A:

排卵日検査薬は医療用体外診断用医薬品であり,一般用医薬品ではない。したがって2009年6月の改正薬事法施行に伴い,店舗の業態が店舗販売業での取扱いはできない。薬局であれば取扱いはできるが(処方せんは不要),陳列は調剤室で,薬剤師による対面販売となる。


close