薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2010年8月)

〔医薬品一般〕

Q:眼瞼黄色腫の治療方法は?内服薬はあるか?(薬局)

A:

眼瞼黄色腫(xanthoma palperum)は,上まぶたの内側部に好発する黄色の扁平な隆起で,痛みやかゆみなどの自覚症状はない。中年以降の女性に比較的多くみられる。黄色腫の本体は,リポ蛋白を貪食したマクロファージ由来の泡沫細胞が真皮内に浸潤したもので,約半数は脂質代謝異常を伴うことが多いが(高脂血症性),脂質に関係なく出現する場合もある(正脂血症性)。高脂血症性の場合には治療が第一で,脂質低下薬であるプロブコール等の内服が有効とされているが,長期服用が必要で,完全に消失させることは困難である。眼瞼黄色腫は正脂血症性が多く,一般的には局所療法として,外科的切除,炭酸ガスレーザー照射,液体窒素による冷凍凝固が行われるが,効果は一定せず,再発することもある。

Q:熱中症の予防にスポーツドリンク様の飲料で水分補給したいが,食塩等の割合は?(薬局)

A:

日本体育協会が作成した「熱中症予防8か条」によると,0.1〜0.2%の食塩と糖分を含んだものが有効で,運動量が多いほど糖分を増やしてエネルギーを補給することを勧めている(1時間以上の運動の場合は4〜8%程度の糖分含有)。冷えた水は深部体温を下げる効果があり,また胃滞留時間が短く小腸に速やかに移動して吸収されるので,水温は5〜15℃に冷やした水が良い。

【調製例】
水1リットルに,食塩1〜2gと角砂糖を好みに応じて数個溶かす。

Q: 新しい糖尿病の診断基準で取り入れられたHbA1c値は,なぜHbA1c≧6.5%〔HbA1c(JDS)≧6.1%:従来のJDS値に0.4%を加えた値〕になったのか?(薬局)

A:

我が国で使用されているHbA1c(JDS値)は,海外のほとんどの国で使用されているNGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)値で表記されたHbA1c値と比較して約 0.4%低値であるという問題がある。現在国際標準化が検討中だが時間を要するため,日本糖尿病学会(Japan Dabetes Society:JDS)は次のように運用の実際を取り決めた。
従来我が国で使用されてきたJDSによって標準化されたHbA1cをHbA1c(JDS値)と呼び,HbA1c(JDS値)に0.4%加えたものをHbA1c(国際標準値)と呼ぶ。これは海外で使用されているHbA1c(NGSP値)に相当する値である。日常臨床では,JDSが別途告知する日時「国際標準化変更日」までは,検査結果として印字されるHbA1cは,HbA1c(JDS値)とし,それ以降はHbA1c(国際標準値)とするが,いずれの場合もHbA1cと表示される。ただし,「国際標準化変更日」以降は,検査結果印刷用紙に脚注などの形でHbA1cが国際標準値で表示されていることを明記する。患者には「国際標準化変更日」までの数値に比して0.4%高値となっていることを十分説明する。この変更は,機器メーカーや臨床検査学会,病院検査部との協力により,一斉に行う。

Q: 肝斑に用いるトラネキサム酸の1日の用量は?(薬局)

A:

トラネキサム酸は抗プラスミン作用を有し,メラノサイトの活性化を阻害してメラニン生成を抑制する。肝斑に対する効能・効果は医療用としては認められていないが,一般用医薬品として承認を取得し,トラネキサム酸1日750mgを含有する配合剤トランシーノ™(第一三共ヘルスケア,第1類医薬品)が発売されている。なお皮膚科では1日1,000mg〜1,500mgが保険適応外使用されている。

Q:ケロイドや肥厚性瘢痕の予防・治療に用いるシリコンジェルシートとは何か?(薬局)

A:

シリコンジェルシートは軟らかく粘着性のある皮膚保護材で,洗浄により粘着力が復活するので通常2〜3週間は再使用が可能である。作用機序の詳細は不明だが,保湿効果と圧迫効果があり,ケロイドや肥厚性瘢痕は創傷部位周辺の皮膚張力がかかると発生リスクが高まるが,シリコンジェルシートを患部に貼付すると,その張力を分散できる。シートは1日1回剥がし,皮膚の状態を確認してよく洗浄し,再貼付する。エフシート™(富士薬品),シカケア™(スミス・アンド・ネフュー),メピフォーム™(メンリッケヘルスケア),トリポロン™(原沢製薬工業)等があり,シリコンオイルが充填されたクッションタイプのクリニセル™(原沢工業)等も用いられる。

〔安全性情報等〕

Q:フッ化水素が皮膚に接触した時の処置法は?(薬局)

A:

フッ化水素(無水は強酸,水溶液のフッ化水素酸は弱酸)は,毒性および腐食性が強い。吸入,経口,経皮のどの経路でも局所腐食作用を示し,速やかに吸収され,血行により全身に分布して,フッ素イオンとして直接細胞毒性による臓器障害,カルシウムイオンとの結合による低カルシウム血症等の全身障害を起こす。皮膚に接触した場合の症状の程度は濃度依存性で,出血性発疹,強い皮膚炎,深達性熱傷,激痛を伴う深い難治性潰瘍等を生じる。処置は,汚染部位を大量の流水で十分に洗浄しながら衣服を取り除く。軽度の場合は2.5%グルコン酸カルシウムゼリー剤を塗布する(保険適応外)。重度の場合は8.5%グルコン酸カルシウム注(カルチコール™注)を0.5mL/cm以下の用量で,熱傷部位の周囲0.5cm程度まで皮下注入する(大量投与は組織循環を阻害し,壊死を来す)。ただし指趾は避ける。

【2.5%グルコン酸カルシウムゼリー剤の調製法】
グルコン酸カルシウム1.25g CMCナトリウム1.8g 精製水 適量 全量50g。
空瓶に上記量を混和し,放置しておくとゼリー状になるので,瓶のままオートクレーブにて滅菌。冷却後,滅菌軟膏容器に充填,冷所保存。
2次汚染防止のため手袋を着用し,15分毎に塗布してゼリーが浸透するようにマッサージし,痛みが治まるまで続ける。

Q:下剤のプルゼニド錠で尿が赤色に着色することがあると言われたが,大丈夫か?(一般)

A:

プルゼニド錠の成分センノシドがアルカリ尿と反応して黄褐色〜赤色に着色することがあるが,健康上の問題はない。

〔その他〕

Q: 血圧測定は医行為になるか?(その他)

A:

医行為とは医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為とされている。近年の疾病構造の変化,国民の間の医療に関する知識の向上,医学・医療機器の進歩,医療・介護サービスの提供の在り方の変化等を背景に,医行為の範囲解釈が不明確となっていたが,厚生労働省医政局は「原則として医行為ではないと考えられる行為」について通知を発出した。「医師法第17条,歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(医政発第0726005号,平成17年7月26日)によると,「自動血圧測定器により血圧を測定すること」は原則として医行為ではないとされている。

Q:コンニャクを食べたら便秘が改善するか?(薬局)

A:

コンニャクは水溶性食物繊維のグルコマンナンを多量に含有する。グルコマンナンはグルコースとマンノースのβ‐1,4結合からなるペクチン様の多糖類で,ヒトの小腸では消化・吸収されず,大腸で整腸作用,血中コレステロール・トリグリセリド低下,血糖降下作用等の生理作用を発揮する。便秘改善については,排便量および排便回数の増加が報告されている。


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