薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2004年2月)

〔医薬品一般〕

Q:皮膚科から,アレグラTM(フェキソフェナジン)とガスターTM(ファモチジン)の相乗効果を期待して処方されているが,なぜか?

A:
皮膚の紅斑や膨疹は皮膚血管のヒスタミンH1受容体だけが関与し発症するとされてきたが,最近ではH受容体も関与することが確認されている。したがってヒスタミンH受容体拮抗薬の投与だけではコントロールできない慢性蕁麻疹や皮膚掻痒症に対しては,H受容体の関与も考慮し,抗ヒスタミン薬(H・H受容体拮抗薬)の併用が試みられることがある。ただしH受容体拮抗薬の単独投与では無効か,むしろ悪化することが多い。H受容体拮抗薬は保険適応外使用。

Q: 患者がヘバーデン結節と診断されたらしいが,どんな病気か?(薬局)

A:
遠位指節間関節に多発性に結節様の膨隆と変形を生じる疾患で,変形性関節症の1つである。イギリスの内科医ヘバーデンが報告したために「ヘバーデン結節」と称されている。40歳以降に多く発症するが(女性がやや多い),原因は不明である。発症初期には疼痛とこわばりを伴い,熱感,発赤を呈する。結節は始めは比較的柔らかいが,数ヶ月から数年を経過するうちに骨,軟骨が肥厚して硬くなって屈曲変形するために「指まがり症」とも呼ばれる。治療は初期の疼痛に対しては消炎鎮痛薬を投与し,通常は3〜6ヶ月,長くても1年を経過すれば疼痛はなくなり,機能障害も少なく特別な治療は不要である。

Q: 疥癬に使う内服薬があると聞いたが,何か?(薬局)

A:
イベルメクチンが用いられている。ストロメクトールTM錠3mg(万有製薬)が薬価基準に収載されているが,適応は「腸管糞線虫症」であり,疥癬には保険適応外使用となる。本剤は土壌放線菌Streptomyces avermitilis が産生するアベルメクチン の誘導体で,GABA依存性神経伝達を遮断することで駆虫作用を発揮する。動物用薬としては,消化管寄生虫だけでなく,ダニやシラミなどの外部寄生虫の駆除にも用いられている。ヒト疥癬の処方例は,成人1日200 μg/kgを1回内服し,必要に応じて1週間後に同量を追加するが,卵には効果がないので2回内服の方がより確実な治癒効果が期待できる。海外では広く用いられているが,乳幼児や妊婦に対する安全性は確立していない。

Q:甲状腺機能亢進症の治療に放射性医薬品ヨウ化ナトリウム(131 ) を使用した患者が,家族等に被爆の影響を与えないために必要な日数等は定められているのか?(病院)

A:
放射性ヨウ素などの治療用放射性医薬品を投与された患者が,核医学施設から帰宅する時,または専用の病室から一般病室に移る時の退出基準は,投与量,測定線量率,患者毎の積算線量計算に基づく退出基準などにより定められている。
「放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針」平成10年6月30日 医薬安第70号

Q:薬用植物カミツレ(カモミール)由来の医薬品があったと思うが,何か?(薬局)

A:
カミツレはヨーロッパ原産のキク科の薬用植物である。その頭花を乾燥した物は抗炎症作用や創傷治癒促進作用を有し,古くから民間薬として用いられている。カミツレの有効成分カムアズレンの類縁体グアイアズレンを水溶化したアズレンスルホン酸ナトリウムが,内服薬として胃炎や胃潰瘍に,外皮用として湿疹,熱傷等のびらんや潰瘍に,含嗽用・挿入用として咽頭炎,扁桃炎,口内炎等に,点眼薬として結膜炎等に用いられている。

Q:肌がきれいになるピーリングとは?(薬局)
A:
ケミカルピーリング(Chemical Peeling)のこと。皮膚に化学物質を塗布して,表皮または真皮を化学的に剥離させ,その再生する自然治癒過程を利用して,健常な皮膚組織に置換する方法である。医療ではざ瘡治療に応用されるが,最近では,シミ,シワ等の主に肌の若返り目的に行われている。ピーリング剤としてα-ヒドロキシ酸(フルーツ酸)の一種であるグリコール酸や,その他にサリチル酸,トリクロル酢酸等が用いられている。

〔副作用・安全性情報〕

Q:鉄剤を服用して歯が黒く着色した場合どうしたらよいか?(医師)

A:
鉄剤の特に顆粒剤の服用で,口中に残った鉄剤が酸化されることにより,歯が着色すると考えられている。着色した場合,重曹などで歯をみがく。

Q:1歳児が銀杏を1個口に入れ,少しかじっているが大丈夫か?(一般)

A:
1個を少しかじった程度では心配ない。昔から銀杏は食べ過ぎると中毒を起こすと言われている。中毒量は,小児は7〜150粒,成人は40〜300粒。中毒症状は摂取後1〜12時間で発症し,主に嘔吐,痙攣(繰り返す発作),めまい,顔面蒼白,発熱,意識混濁,呼吸困難等で死に至ることもある。有毒成分は4’-メトキシピリドキシン(4'-MPN)で,ビタミンB6と極めて構造が類似し,アミノ酸代謝の補酵素であるビタミンB6の作用を競合的に阻害する。なかでもグルタミン酸脱炭酸酵素が阻害されるために,脳内抑制性神経伝達物質GABAの生成が抑制され,痙攣が引き起こされる。4'-MPNは熱に安定で,煮ても焼いても消失しない。また4'-MPNは腸肝循環を繰り返すので,約3時間毎に痙攣発作を起し,24時間ぐらい持続する。治療は催吐や胃洗浄は行わず,対症療法。痙攣にはジアゼパム静注を行い,薬理学的拮抗薬であるリン酸ピリドキサール(補酵素型ビタミンB6)を8mg/kg静注する。回復には2〜90時間を要する(約半数は24時間以内)。

〔行政・保険・その他〕

Q:ニコチネルTMTTSを医師の指示書で販売する場合,様式は決まっているのか?(薬局)

A:   
指示書の様式に決まりはない。ただしニコチネルTMTTSは要指示医薬品,劇薬なので,要指示医薬品の譲渡に関する帳簿の記載,および劇薬譲受書の取得が必要で,いずれも2年間保存。要指示医薬品の譲渡に関する帳簿の記載項目として,品名および数量,販売または授与の年月日,処方せんを交付しまたは指示した医師,歯科医師または獣医師の氏名,およびその者の住所または勤務する病院,診療所,飼育動物診療施設の名称と所在地,譲受人の氏名と住所が必要。劇薬の譲受書の記載項目は,品名,数量,使用の目的,譲渡の年月日,譲受人の氏名,住所,職業,署名または記名押印。

Q:薬局で患者に必要に応じて保険証の提示を求めても良くなったのはいつからか?(薬局)

A:   
2002年10月1日からの高齢者の定率負担制の導入に伴い「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」の内容が一部改正され(第3条処方せんの確認),これにより,主に70歳以上の高齢者や3歳未満の乳幼児の自己負担割合を確認することを目的に,保険薬局における患者の保険証の確認が認められるようになった。しかし保険薬局での保険者番号などの確認は,原則として処方せんにより行うので,すべての患者に保険証の提示を求めるのは「行き過ぎ」と判断される可能性が高い。(調剤と情報 2003年9月臨時増刊号より)
Q:視力障害を有する患者のために,服薬指導用の点字シールがあるらしいが,メーカーは?(卸)

A:
(株)大洋社(03-3503-3656)や(株)丸高三信堂(011-611-3459)などから発売されている。


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