薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2004年4月)

〔医薬品一般〕

Q:片頭痛発作時にプリンペランTMが頓服で処方されたが,どうしてか?(薬局)

A:
メトクロプラミド(プリンペランTM)やドンペリドン(ナウゼリンTM)等のドパミン拮抗性の制吐薬は片頭痛の随伴症状である悪心・嘔吐を軽減させ,さらに蠕動運動を亢進して薬剤の吸収を高める目的で使用されることがある。また制吐薬は単独の片頭痛治療薬としては有効性は限られるが,たとえ悪心・嘔吐が顕著でなくても,早期服用により急性期(発作時)に効果的な場合がある。

Q: 高尿酸血症の患者は運動をしすぎるといけないらしいが,どうしてか?(薬局)

A:
短時間に体を動かす短距離走や過度の筋力トレーニングなどの無酸素運動では,筋肉内でAMP(アデノシン一リン酸)が大量に産生され,順次にIMP(イノシン一リン酸)→イノシン→ヒポキサンチンに分解され血中に放出される。これらは肝臓に取り込まれて大量の尿酸を生み出し血清尿酸値を上昇させるので,高尿酸血症の運動指導としては好ましくない。一方,水泳,散歩,ジョギングなどの有酸素運動は,血清尿酸値の上昇を起こさず,体脂肪の減少,耐糖能の改善など,高尿酸血症に合併しやすい病態を改善させるため奨励されている。

Q:C型慢性肝炎の患者には鉄を制限した食事指導がされているが,どうしてか?(薬局)

A:
C型慢性肝炎では鉄過剰を来たしやすく,鉄が2価から3価になる時に生じるフリーラジカルが細胞膜障害,DNA障害を引き起こし,肝病変の進展,肝細胞癌の発生に影響を与えているものと考えられる。このため鉄制限の食事療法のほか,瀉血療法も試みられている。

Q:骨粗鬆症の新しい薬で「サーム」というのがあると聞いたが,どんな薬か?(一般)

A:
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(Selective Estrogen Receptor Modulators)で,SERMs(サーム)と略称する。平成16年4月に閉経後骨粗鬆症の治療薬として,塩酸ラロキシフェン(エビスタTM錠60mg,日本イーライリリー〜中外)が薬価基準に収載された。本剤は子宮や乳房に対しては抗エストロゲン作用を示すが,骨ではエストロゲン受容体に結合して骨吸収を抑制し,椎体や大腿骨および全身の骨密度を増加させる。

Q:レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome)とは?(薬局)

A:
下肢静止不能症候群,不穏下肢症候群,Ekbom症候群ともいう。原因不明だが,夜間,特に就寝時,時に安静時に生じる下腿の一過性の異常感を主症状とし,他覚的神経症状はみられない。この異常感は通常両側性で,下腿の前面と内側面に多く,虫が這うような,刺すような,あるいはむずがるようなもので,これを軽減するために足を動かし,休止できない状態を呈する。不眠症の原因にもなり,妊娠,感染症など,他の疾患に際して症状の増悪をきたすことがある。治療には,軽症にはベンゾジアゼピン系薬,中等症にはドパミン作動薬(レボドパ,ペルゴリド等),重症にはオピオイド系薬(モルヒネ,ペンタゾシン等)が用いられる。

Q: シメチジンが整形外科で石灰沈着症に使用されているが,どうしてか?(薬局)
A:
有痛性石灰沈着症にシメチジンが臨床的に有効であった報告がある(保険適応外使用)。作用機序は解明されていないが,上皮小体に作用し,PTH(副甲状腺ホルモン)を介してカルシウム代謝に影響すること,またH2レセプターは骨格筋自身には存在しないが,骨格筋の中に分布している血管には存在するので,シメチジンが直接この末梢H2レセプターに作用することが考えられている。

Q:インスリン製剤でヒューマリンRやヒューマリンNの「R」や「N」は何の略か?(薬局)

A:
Rは速効型を意味するRegular(またはRapid)の頭文字,Nはインスリンに持続化剤の硫酸プロタミンを加えたNPH:Neutral Protamine 
Hagedorn製剤(イソフェンインスリン水性懸濁注射液)頭文字で,中間型を意味する。


〔副作用・安全性情報〕

Q:Caを含むSMTM散等の健胃消化薬や沈降炭酸Caはどうして甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症に禁忌なのか?(薬局)

A:
Caは腸管内でリン酸イオンと結合し,不溶性のリン酸複合体を形成して腸管からの吸収が抑制されるが,血中Ca濃度を上昇させる可能性もあり,症状が悪化する恐れがあるため。

Q:1歳半の幼児が車の芳香剤(液状)を一口誤飲したらしい。すぐ吐き出したらしいが,処置は?(医師)

A:   
液体芳香剤の主成分は,香料1〜2%,非イオン系界面活性剤約2%,エタノール1〜50%(車用には一部にメタノール含有のものもある),色素・酸化防止剤,水適量。少量の誤飲ではほとんど毒性はなく,中毒症状は現れない。口腔・咽喉粘膜の刺激を生じることがあるが,積極的な処置は不要で,水やお茶を飲ませて様子を見る。症状発現時には対症療法となる。大量誤飲ではアルコール中毒が起こることがあるが,刺激臭があり,大量に誤飲することは少ない。

Q:スイセンの葉をニラと間違えて食べたらしい。30分後受診しているが処置は?(保健所)

A:   
ヒガンバナ科の植物(スイセン,ヒガンバナ,ハマユウ,アマリリス等)にはリコリンやガランタミンなどの有毒なアルカロイドが含まれている。全草に含まれるが,球根に特に多い。中毒症状は少量では悪心・嘔吐,下痢,流涎,発汗など。大量では,神経麻痺の可能性があるが,ほとんど初期に嘔吐するため,消化器症状程度にとどまる。処置は対症療法となるが,大量摂取の場合は活性炭,塩類下剤の投与,下痢や流涎がひどい場合は硫酸アトロピンの静注を行う。


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