薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2004年5月)

〔医薬品一般〕

Q:Ximelagatranとは何か?(薬局)

A:
Ximelagatran(キシメラガトラン)は直接的経口トロンビン阻害薬で,抗血栓作用を示す。2003年12月23日,整形外科手術時(股関節や膝の代替手術等)の血栓塞栓症予防薬として,世界で初めてExantaTMがフランスで販売承認された。日本ではアストラゼネカ社が,心房細動患者の脳卒中および全身性塞栓症の予防を適応として,現在,申請準備段階である。

Q: 鎮痛剤のキョーリンAP2TM顆粒の成分であるシメトリドの薬理作用は?(薬局)

A:
シメトリドは間脳視床下部に作用し,鎮痛効果は経口および腹腔内投与のいずれでも,リン酸コデインと同等の効果を示す(マウス)。また,シメトリド400mgの鎮痛効果(Clutton Bloch法による圧刺激法)は,リン酸コデイン30mgとほぼ等しく,約4時間程度の持続効果が得られた(健康成人)。

Q:中枢性降圧薬にはどのようなものがあるかと医師から聞かれたが?(薬局)

A:
中枢性α刺激薬で,中枢神経系α受容体を刺激して,遠心性交感神経活動を低下させて降圧作用を示す(心拍出量の減少および総末梢血管抵抗の低下)。また副交感神経系の緊張を高める作用もある。ワイテンスTM(酢酸グアナベンズ),エスタリックTM(塩酸グアンファシン),カタプレスTM(塩酸クロニジン),アルドメットTM(メチルドパ)の製品が市販されている。これらの薬剤は精神緊張の強い患者や若年者に適し,高齢者には適さない。妊婦に用いられる降圧薬ではメチルドパが第一選択薬となる。副作用には中枢神経抑制による活動低下・抑うつ・傾眠,口渇,起立性低血圧,徐脈,中断症候群,性機能障害等がある。

Q:遊走腎とはどのような病気か?(薬局)

A:
遊走腎(腎下垂)とは腎の生理的範囲の呼吸性移動(4〜5cmあるいは1.5椎体以内)を越えて,後腹膜腔で,腸腰筋に沿い下前方に移動する状態で,骨盤腔までも達することがある。脂肪の少ない痩身の女性,特に高齢者の婦人に多くみられる。下垂の程度と症状は必ずしも相関せず,30%近くは無症状で,治療の必要性がない。腎茎の伸展,捻転による腎うっ血,腎盂尿管の屈曲による上部尿路通過障害による腰痛,側腹部痛,背部痛などの疼痛や血尿が増加する場合を遊走腎と称する。長時間の歩行,立位,運動時などに疼痛が出現し,臥位で軽減ないし消失する。治療は保存療法,疼痛や血尿には薬物療法,あるいは外科的に腎固定術を行う。

Q: 加齢黄斑変性症とはどのような病気か?(薬局)

A:
加齢黄斑変性症(Age-Related Macular Degeneration:AMD)は50歳以上の高齢者にみられる疾患で,網膜の中心(黄斑部とその中心の中心窩)が加齢に伴って変性をきたすものをいう。症状は,変視症(ものが歪んで見える),中心暗点(見ようとする所の中心の一部が見にくい),視力低下などである。本症は黄斑部にドルーゼンという色素沈着物が出現し,網膜脈絡膜萎縮を起こす「萎縮型」と,脈絡膜から網膜下に脈絡膜新生血管が発生する「滲出型」に分けられる。「萎縮型」は老化現象で進行が遅く,視力も急には落ちないので治療の対象とならない。「滲出型」は進行性で,放置によりほぼ全例で高度な視力低下が起こるため,進行度や重症度などに応じて光凝固治療や新生血管の抜去などの積極的な治療が必要となるが,視力の維持・改善は困難で,また有効性が確認された薬剤はない。発症の危険因子として,老化のほか,喫煙,光障害,高血圧などが推定され,男性は女性の3倍の頻度で発症する。欧米では糖尿病性網膜症に次ぐ視力障害の原因となり,日本でも最近欧米なみに増加してきている。


〔副作用・安全性情報

Q: 瞬間接着剤のアロンアルファTMを間違って点眼したらしいが,処置は?(医師)
A:
成分はαーシアノアクリレートモノマーで毒性はほとんどない。目に入った場合は水ですぐに洗眼し,FAD点眼液をさし,眼帯をしておく。ほぼ24時間で眼球より剥離し,異物として取り除ける。目をこすったりしない。
         (吉村正一郎ら編: 急性中毒情報ファイル 第3版,廣川書店,1996.より)

Q:風邪で咳止めのアスベリンTM錠を服用しているが,尿検査に影響するのか?(一般)

A:
尿の色は通常は藁黄色だが,アスベリンTM錠の成分であるヒベンズ酸チペピジンの代謝物により,尿の色調が赤みがかることがある。


〔保険・行政〕

Q:水いぼの除去に,ペンレスTMテープを処方せんでだすことはできるか?(薬局)

A:
局所麻酔薬である塩酸リドカインのテープ剤(ペンレスTM)の適応は,静脈留置針穿刺時の疼痛緩和で,1回1枚を,静脈留置針穿刺予定部位に約30分間貼付し,本剤除去後直ちに留置針を穿刺するとなっている。ペンレスTMテープを用いて疼痛を抑え,水いぼ(伝染性軟属腫)の除去が行われることはあるが,保険適応外使用である。また処置に使用される薬剤を院外処方せんで交付することはできない。


〔食品・健康食品・その他〕

Q:カリウムを補給するには,どのような食品を摂取すればよいか? (薬局)

A:   
カリウムはエネルギー代謝,細胞膜輸送,細胞内外の電位差の維持等の機能を担い,筋肉収縮,ナトリウム排泄促進(降圧作用),ホルモン分泌促進等の生理作用を有している。カリウムは野菜,果物,肉類等のあらゆる食品に含有され,通常の食生活ではカリウム欠乏症や過剰症は生じない。主な食品可食部100gあたりのカリウム含有量は,黄な粉(全粒大豆)1,900mg,さつまいも(塊根,焼き)540mg,じゃがいも(塊茎,水煮)340mg,トマト(果実,生)210mg,ほうれん草(葉,ゆで)490mg,ブロッコリー(花序,ゆで)180mg,にら(葉,ゆで)400mg,イチゴ(生)170mg,リンゴ(生)110mg,アボカド(生)720mg,バナナ(生)360mg,真鯛(天然,生)440mg,かんぱち(生)490mg,さわら(生)490mg,和牛(もも,脂身付き,生)310mg,にわとり(もも,皮付き,生)270mg,豚(もも,脂身付き,生)350mg,牛乳(普通)150mgである。食品中のカリウムは,調理方法(洗浄,浸漬,ゆでる,蒸す,炒めるなど)により減少する。

Q:ルテインが加齢黄斑変性症などに効果があるらしいが,何か?(薬局)

A:   
ルテイン(Lutein)は緑黄色野菜や果物に含まれるカロチノイド化合物である。抗酸化作用を有し,フリーラジカルによる細胞の損傷を守る作用があると言われている。ヒトはルテインを体内で作ることはできないので,他のカロチノイドと同様に食品から摂取する必要があるが,体内では網膜の黄斑部に多く存在し,紫外線などの有害光線や活性酸素から細胞を守る働きがあると言われている。

Q:サルタノールTMインヘラーの用法に,p.r.n.と書いてあるがどのような意味か?(薬局)

A:   
ラテン語「pro re nata」の略。「必要に応じて」,「臨機応変(頓服)」の意味がある。



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