薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2004年6月)

〔医薬品一般〕

Q:抗うつ薬でベンラファキシン(venlafaxine)という薬があるらしいが?(一般)

A:
選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)。米国をはじめ,50カ国以上で承認されているが,日本ではワイスXが第3相臨床試験中。

Q: 帯状疱疹に適応があるゾビラックスTM錠とバルトレックスTM錠の違いは?(薬局)

A:
バルトレックスTM錠の成分バラシクロビルは,ゾビラックスTM錠の成分アシクロビルの経口吸収性を改良したプロドラッグ(L-バリルエステル)である。バラシクロビルは消化管から速やかに吸収され,活性代謝物のアシクロビルに変換されて抗ウイルス作用を示す。そのバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は約5倍高いため,服用回数も改善され,帯状疱疹に対してバラシクロビルは1日3回,アシクロビルは1日5回となっている。

Q:ODT療法とは,どんな治療法か?(薬局)

A:
密封包帯法(Occlusive Dressing Technique)のこと。皮膚の慢性炎症(アトピー性皮膚炎や乾癬等の角化や苔癬化した病巣)の治療法で,軟膏やクリームを塗擦した患部を薄いポリエチレンフィルム等のラップ剤(サランラップTM等)で覆い,周囲を接着テープで固定・密封し,8〜12時間そのまま放置する方法である。通常は1日1回取り替える。一般に副腎皮質ステロイドの外用で行われている。ODT療法では角質層の水分量が増加し,皮膚バリアー機能が低下するため,単純塗布に比べて薬物の経皮吸収を増加させ,効果を高めることができる。一方,皮膚感染症や皮膚萎縮などの副作用や副腎皮質機能低下などの全身性副作用も起こりやすくなるので,短期間使用にとどめ,注意深い観察が必要である。

Q:パーキンソン病治療時に起こるNo on 現象,Delayed on 現象とは何か?(薬局)

A:
No on現象はL-DOPAを服用しても効果発現が見られない現象,Delayed on現象は効果発現に時間を要する現象のこと言う。どちらの現象も末梢におけるL-DOPAの吸収障害が原因と考えられ,昼食後のL-DOPA服用時に起こりやすいので,昼のL-DOPAの増量を試みる。L-DOPAは主に空腸上部で吸収されるが,吸収を妨げる要因として,胃液酸度の低下(消化管pHの上昇),胃における大量の食物の存在,胃排出時間の遅延があげられる。対策として,L-DOPAの吸収を良くするために食前・空腹時投与に切り替えたり,消化管運動促進薬の投与などを行う。また副次的要因としてL-DOPAの血液から脳への移行障害も関与している可能性がある。脳への移行を妨げる要因としては,L-DOPAから生じた3−Oメチルドパと,食物から生じた血中長鎖中性アミノ酸の増加が考えられる。対策としてはL-DOPAの脳への移行の改善には,COMT阻害薬(本邦未発売)の投与や,日中の蛋白制限を行い,必要蛋白は夕食時に補給する。

Q: ブリットル型糖尿病とは?(薬局)

A:
ブリットル(brittle)とは英語で「移ろいやすい,もろい,こわれやすい」を意味する。医療では不規則な変動によりコントロールが相対的に困難な病気の総称として付けられる。ブリットル型糖尿病とは不安定型糖尿病のことで,広義には原因が何であれ,頻回に高血糖と低血糖を繰り返すため,日常生活が全うできない糖尿病のこと。狭義には適当と考えられるインスリン療法下で投与量,投与方法が一定であり,1日の食事量,運動量も一定であるにもかかわらず,予期せぬ低血糖を含む血糖日内変動が大きく,その原因が不明でコントロールが難しい糖尿病をさす。一般に膵β細胞機能が廃絶し,内因性インスリン分泌が欠如した糖尿病患者にみられ,I型糖尿病に属する。誘因として感染,抗インスリンホルモン分泌過剰,副腎機能不全,褐色細胞腫などが考えられる。血糖自己測定が必須で,薬物療法は,頻回注射の強化インスリン療法や持続皮下インスリン注入法(CSII)が行われ,さらに食事面でも補食や分食などで対策をとる。


〔副作用・安全性情報

Q: 1歳児が熱さましに使っている冷却シートを少しかじったが,処置は?(薬局)
A:
冷却シートは不織布にジェル状冷却剤が塗布されており,成分はグリセリン,ソルビトール,ポリアクリル酸ナトリウム,ゼラチン,カルボキシメチルセルロース,メントール,防腐剤等で,ほとんど毒性はない。通常の誤食では処置は不要で,水を与えて様子を見る。大量摂取では悪心,嘔吐,下痢などの消化器症状が生じることがあり,対症療法となる。

(日本中毒情報センターのホームページ http://www.j-poison-ic.or.jp/より)

Q:梅干の種子の殻を割って食べた場合,食中毒を起こすことはあるか?(薬局)

A:
青梅に含まれる青酸配糖体(アミグダリン)は,梅に含まれる酵素あるいは腸内細菌の酵素のβ-グルコシダーゼにより加水分解を受け,ベンズアルデヒドおよびシアン化水素(青酸)を遊離し中毒を起こす。梅干や梅酒などに加工することにより,アミグダリンは徐々に分解され,梅干やその種子の核(仁)からはほとんど検出されない。大量に食べない限り食中毒を起こすことはないが,個人差があり,下痢や腹痛を起こすこともある。


〔食品・健康食品・その他〕

Q:ワルファリンを服用中の患者さんがクランベリージュースを飲んでいるが,相互作用は問題ないか?(病院)

A:
70歳代の男性(ワルファリン,フェニトイン,ジゴキシン服用中)が食欲不振でほとんど何も食べられず,クランベリージュースのみを摂取し,6週間後にINRが上昇(>50)となり,消化管出血および心膜出血により死亡した1症例がある。その他にも,劇的ではないが,INR上昇または出血した症例,INRが全般に不安定になった症例報告もある。一方,逆にINRが低下していた報告もある。クランベリージュースに含まれるフラボノイドは,チトクロムP450を阻害することは知られているが,明確な相互作用の機序は解明されていないため,解明されるまではクランベリージュースの摂取を制限した方がよい。
(Suvarna et al. BMJ 327,1454,2003.より)


Q:尿検査で,粘液糸(+),無晶性リン酸塩(+),リン酸アンモニウムマグネシウム(+)の結果がでたらしいが,何を意味しているのか?(薬局)

A:   
尿沈渣(尿を遠心分離して得られる沈澱成分)の検査項目で,尿沈渣は腎・尿路疾患の鑑別と治癒効果の判定に不可欠の検査である。尿中粘液は肉眼的には雲翳(うんえい:雲状浮遊物)としてみられ,沈渣を鏡検すれば無色の毛糸状を呈する。その量が多いのは,尿路粘膜の炎症,特に腎盂腎炎,膀胱炎,尿道炎などで,その回復期に多くみられる。また尿中塩類の排泄は体内における塩類代謝,酸塩基平衡状態などに関係し,リン酸アンモニウムマグネシウムや無晶性リン酸塩は,一般にアルカリ性尿中,細菌尿中にみられることが多い。ほとんどの結晶性沈渣には特別な病的意義はないが,異常に増加したリン酸塩尿などは,結石症などの診断,予防の上での検査として重要となる。

Q:学校のプール水の過マンガン酸カリウム消費量が上昇しているが,原因と対策は?(薬局)

A:   
過マンガン酸カリウム消費量は有機性物質による汚染の程度を表す水質指標で,ほとんどが遊泳者が持ち込む汗,尿,垢等に由来する。汚染の物質はろ過装置で取り除かれるが,ろ材透過性の成分や水中に溶け込んでいる成分は取り除けないものもある。入泳前の身体の洗浄を徹底し,補給水を増やす,ろ過装置の目詰まりの除去などの対策を講じ,常に基準値の12mg/Lを超えないように水質管理をする。

Q:点滴静注をDIVと言うが,何の略か?(薬局)

A:   
Drip Infusion in Vein を略して,DIVと言う。

Q:体表面積の算出方法は?(薬局)

A:   
体表面積(cm2)=体重(kg)0.425×身長(cm)0.725×71.84(Du Boisの式)で算出される(1cm2=0.0001m2)。日本人では体型が異なるため,高比良がDu Boisの式を補正した式(71.84→72.41)が使用されている。


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