薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2004年8月)

〔医薬品一般〕

Q: 紅色陰癬(こうしょくいんせん)とはどのような病気か?(薬局)

A:
グラム陽性桿菌 Corynebacterium minutissimum によって生じる皮膚の細菌感染症で,皮膚同士が接触する部位に好発し,とくに男性の陰股部が多く,時に腋窩,肛門,趾間(足白癬と合併することがある),女性の乳房下部にも生じる。成人や糖尿病患者に発症し,また熱帯地方に多い。境界明確で軽度に菲薄な鱗屑を付する扁平な淡紅褐色ないし淡黒褐色斑を呈し,自覚症状は全くない。股部白癬や陰のう湿疹等との鑑別が必要で,病変部にウッド灯(紫外線365nm)を照射すると桃色〜サンゴ紅色蛍光を発するので容易に診断できる。治療はエリスロマイシンやテトラサイクリンの内服。

Q:RSDとはどのような病気か?(薬局)

A:
反射性交感神経性ジストロフィー(Reflex Sympathetic Dystrophy)。外傷などの不完全な末梢感覚神経の損傷の後に,障害神経の支配部位を越えて灼熱痛を特徴とした激しく持続する慢性の疼痛が生じ,皮膚温低下,浮腫などの血管運動障害やそれに引き続いて筋萎縮,皮膚,爪の退行性変化や骨粗鬆症などの栄養障害をきたす病態。運動麻痺,不随意運動など運動系の障害を伴うこともある。罹患期間は数週間で寛解するものもあるが,多くは何年にもわたり,永遠に続くものもある。交感神経節ブロック,交感神経切除,レセルピン等による局所静脈内交感神経ブロックや交感神経遮断薬プラゾシン等の内服が有効とされ,ニフェジピンや副腎皮質ステロイド,三環系抗うつ薬,抗てんかん薬等も使用される。

Q: 糖尿病治療薬で,ビグアナイド系のメトホルミンの作用は?(薬局)

A:
従来,ビグアナイド系薬はスルフォニル尿素系薬の補助的薬剤として用いられていたが,副作用の乳酸アシドーシスが問題となり使用も減っていた。しかし最近,大規模臨床試験などによる有用性を示す新たなエビデンスが蓄積され,再び評価が高まっている。本剤はインスリン分泌刺激作用は有さず,肝における糖新生の抑制,グリコーゲン生成の亢進,腸管からブドウ糖吸収抑制およびインスリン抵抗性改善作用を有し,24時間にわたって血糖降下作用を示すと言われている。さらに肝,骨格筋,脂肪細胞等で糖・脂質代謝の調節に重要な役割を担うAMPキナーゼの活性化を促進することで,糖・脂質代謝を改善させることが解明されている。低血糖や体重増加は起こしにくいという利点も有し,肥満やインスリン抵抗型の2型糖尿病に,単独投与あるいは他剤との併用療法が行われている。

Q:メイアクトTM小児用細粒とメイアクトMSTM小児用細粒の違いは何か,名称が変更になっただけか?(薬局)

A:
メイアクトMSTM小児用細粒は平成16年7月9日に薬価基準に収載され,メイアクトTM小児用細粒は平成17年3月31日までの経過措置品目に移行している。メイアクトMSTM小児用細粒は添加物にカゼインナトリウムを含まないため,牛乳(カゼイン)アレルギー患者に対しても投与が可能で,懸濁性の向上により水に溶解しても飲みやすく,バナナ風味となっている。

Q: 女性ホルモンのエストラジオール貼付剤を胸部に貼付しても良いか?(薬局)

A:
エストラジオールが乳房局所の細胞に高濃度で到達した場合,細胞増殖を刺激する恐れがあるため,胸部への貼付は避ける。


〔調剤・製剤〕

Q: 0.05%塩化ベンゼトニウムグリセリン液の調製方法と用途は?(薬局)

A:
塩化ベンゼトニウム10w/v%液の2.5mLをグリセリンに溶解して500mLとし,高圧蒸気滅菌(115℃,30分)する。用途は導尿用カテーテルの消毒・潤滑・保存に用いられる。類似処方に,0.05%塩化ベンザルコニウムグリセリン液,0.5%イソジングリセリン液等がある。


Q:カプサイシン軟膏の調製方法は?(薬局)

A:
カプサイシンはトウガラシの辛味成分で,軟膏として帯状疱疹後神経痛,糖尿病性神経障害などに用いられる。0.025%カプサイシン軟膏は,カプサイシン(試薬)0.125gを適量の無水エタノールで溶解し,親水軟膏と十分に練合し,全量500gとする。カプサイシンは眼や鼻などに強い刺激があるので,秤取,混合する時は,マスク,メガネ等を着用し,換気に注意する。


〔行政・保険〕

Q:患者に禁煙をさせたいが,禁煙補助剤はどこで販売しているか?(病院)

A:
ニコチンガムのニコレットTM,同ミント(武田)は一般用医薬品で,薬局,一般販売業,および薬種商販売業での購入が可能である。貼付剤のニコチネルTTSTM(ノバルティスファーマ)は医療用医薬品で,規制は,劇薬,指定医薬品,要指示医薬品となっている。保険適応はないが(薬価基準未収載),要指示医薬品なので,購入には医師の指示(文書が望ましい)または処方せんの交付が必要となる。基本的には処方せんにより調剤することが望ましい。指示による販売にあたっては,要指示医薬品の販売に関する帳簿記載,劇薬譲受書の取得が必要で,それぞれ2年間保管する。

〔その他

Q:患者がバナバ茶を飲用しているが,何か?(薬局)

A:   
バナバは,フィリピン,インドネシア,タイ等の熱帯・亜熱帯地方に自生する多年生のサルスベリ属ミソハギ科の広葉樹で,9〜10月に採集した葉を乾燥させて,お茶として飲用する。活性成分のコロソリン酸(コロソール酸)はインスリン様作用を有し,ブドウ糖輸送体の活性を増強すると言われ,その他にマグネシウム,亜鉛,カルシウムなどのミネラルや食物繊維,タンニンも多く含有する。フィリピンでは医療用植物として糖尿病に用いられている。

Q: 病院薬剤師の業務に「NST」があるらしいが,どのような業務か?(薬局)

A:   
栄養サポートチーム Nutrition Support Team の略。医師,栄養士,薬剤師などが,患者の栄養状態の的確な臨床評価・判定と,それに基づく適切な栄養療法(経口栄養,経管・経腸栄養,経静脈栄養)を合理的かつ効率的に実施すること。NSTにおける薬剤師の役割は生化学的知識に基づいた栄養療法の提言・問題点の抽出,栄養療法に伴う合併症の早期発見・予防,輸液類の調剤,栄養療法関連の情報提供,患者等への服薬指導などである。


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