薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2005年10月)

〔医薬品一般〕

Q:メトロニダゾールをクローン病の治療に使用する時の用量は?(薬局)

A:

5-アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド剤による薬物療法で炎症がコントロールできない場合,副腎皮質ステロイド剤の減量・離脱が必要な場合,肛門周囲病変(潰瘍形成時)などがある場合,感染による合併症を防ぐ場合などに,抗菌作用(偏性嫌気性菌)や免疫調節作用を期待してメトロニダゾールを併用することがある。750mg/日,または10〜15mg/kg/日などの用量で用いる(保険適応外使用)。

Q:抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムが片頭痛の人に処方されたが,なぜか?(薬局)

A:

バルプロ酸ナトリウム(デパケンTM錠等)は片頭痛の予防に用いられる(保険適応外使用)。作用機序は,@バルプロ酸ナトリウムがL-グルタミン酸からGABAを合成する酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼを活性化させて脳内GABA濃度を上昇させ,GABAが視床下部に働いて痛みをコントロールする,A興奮性アミノ酸のグルタミン酸塩が減少して,神経性過剰興奮を平衡化させる,Bセロトニン系神経を阻害して片頭痛発作における血管拡張を予防する,などが推測されている。

Q:医薬品の経腸栄養剤の種類と特徴は?(薬局)

A:

@成分栄養剤(完全消化態栄養剤):栄養素の最小単位で構成されている。消化液がなくてもほぼ完全に上部消化管で容易に吸収され,残渣はなく,消化機能が期待できない時に使用する。蛋白質はアミノ酸,脂質含量は極めて少なく,糖質はデキストリンで,化学的に明らかな成分で構成されている。製品はエレンタールTM,ヘパンEDTMなど。

A消化態栄養剤:消化が多少は必要だが,残渣はほとんどなく,消化吸収能が低下している時や消化管の安静を要する時に使用する。蛋白質は低分子ペプチドやアミノ酸,脂質は少量含有し,糖質はデキストリン。製品はツインラインTM,エンテルードTMなど。

B半消化態栄養剤:天然の食品素材を人工的に加工した,高エネルギー,高蛋白質の栄養剤。ある程度の消化が必要で,残渣は少ないが,消化態より多い。蛋白質はカゼイン,大豆蛋白,卵白,乳蛋白などの最終段階まで消化されていない未消化蛋白が用いられ,脂質は大豆油,コーン油,MCT(中鎖脂肪酸)などが比較的多く,糖質はデキストリンや単糖類,二糖類など。製品はエンシュア・リキッドTM,クリニミールTM,ラコールTMなど。

Q:傷は乾かして治すと以前は言っていたが,最近では覆って治したほうが良いと言われている。どちらが良いのか?(薬局)

A:

最近は傷を閉塞して傷口に出てくる滲出液を保持し,湿潤環境を整えて治す湿潤療法モイストヒーリング法(正式名はモイストウンドヒーリング法:Moist Wound Healing)が広く行われている。滲出液には傷の治癒に重要な役割を果たすサイトカインや細胞増殖因子などが含まれているため,湿潤環境を保つことにより皮膚の自然治癒力が高まり,傷が早く治り,傷あとが残りにくいなどのメリットがある。新鮮な傷に適し,時間が経過して化膿の心配があるものには適さない。傷口を生理食塩液や水道水で洗浄して汚れや細菌を取り除き,消毒薬は使わずに被覆材を当てる。医療現場ではハイドロコロイド素材などのドレッシング材(創傷被覆材)が用いられ,家庭用では傷ケア製品にジョンソン・エンド・ジョンソンXのバンドエイドキズパワーパッドTMがある。

Q:糖尿病トリオパチーとは何か?(薬局)

A:

糖尿病に特異的な病態を示す三大合併症の網膜症(retinopathy:レチノパチー),腎症(nephropathy:ネフロパチー),神経障害(neuropathy:ニューロパチー)を,糖尿病トリオパチーと称する。


〔安全性情報〕


Q:疥癬治療にγ-BHC外用剤が繁用されているが,毒性に問題はないか?(薬局)

A:

γ-BHCの急性毒性は,マウス経口LD50が74mg/kg(γ体95%),ヒト推定致死量は7〜15g,あるいは125mg/kgである。毒性の発現機序は抑制性の神経伝達物質GABAの受容体に対し作用すると報告されている。中毒症状は主に中枢神経刺激作用によるもので,軽症では頭痛,頭重,めまい,悪心・嘔吐,脱力感,振戦など,中等症では不安・興奮,知覚異常,部分的な筋痙攣など,重症では突然の呼吸困難,肺水腫,意識消失,強直性および間代性痙攣,肝・腎・骨髄障害,血圧降下,ショックなどが生じる。また,接触により急性皮膚炎,吸入により喘息様症状が起こることがある。γ-BHCは脂溶性薬物のため,局所の使用でも吸収されて全身性副作用が起こる恐れがある。特に中枢神経系の副作用には注意が必要で,めまい,頭痛の感覚異常などから,痙攣および死亡例も報告されている。重篤な副作用のほとんどは誤飲や過量投与などの誤った使用によるものが多いが,通常の使用でも報告がある(γ-BHCは保険適応外使用)。


〔行政・保険・その他〕


Q:ハルシオンTMなどの向精神薬は鍵がかかる金庫に保管しなければいけないか?(薬局)

A:

向精神薬の保管は(麻薬及び向精神薬取締法第50条の21),@薬局内,病院・診療所施設内に保管すること,A盗難防止の注意が十分払われている場合を除き,鍵をかけた設備内で行うこと,となっている。したがって,夜間・休日あるいは日中でも注意を払う者がいない時に調剤室や薬品倉庫で保管する場合には,その出入り口に鍵をかける,また薬局内のロッカーや引き出しに入れて保管する場合には,ロッカーや引き出し,あるいはその部屋の出入り口に鍵をかけるなどの対応が必要となる。


Q:健康食品の中に二酸化ケイ素(ケイ素)が入っているが,目的は?(薬局)

A:

ケイ素は結合組織(動脈,気管,腱,骨,皮膚など)に多く含まれているが,ヒトでの生理学的機能や必要性はまだ明らかではない。動脈硬化のヒトの動脈ではケイ素が激減しているという報告があり,動脈硬化を予防する可能性が示唆されている。また,ケイ素を食事から多く摂取している男性および閉経前の女性は骨密度が高く,骨粗鬆症のリスクが低いと言われている。閉経後女性における骨吸収は骨の再吸収によるものだが,ケイ素は骨新生にのみ作用すると考えられるため,閉経後女性には効果がないと思われる。食品では未精製の穀類,ペクチン,野菜や豆類等に含まれる。


Q:カルシウムの吸収に砂糖は影響するのか?(薬局)

A:

糖質とカルシウムを一緒に摂取すると,腸管からのカルシウムの吸収は増加する。また動物実験では,カルシウムはブドウ糖よりも蔗糖(砂糖の主成分)と一緒に摂取する方が,腸管でのカルシウムの吸収量が高くなるという報告がある。ただし砂糖の過剰摂取によりカルシウムの尿中排泄が増加するので,適量摂取が大事である。



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