薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2006年5月)

〔医薬品一般〕

Q:H・ピロリ菌の除菌後,逆流性食道炎になるのはなぜか?(薬局)

A:

日本では,H・ピロリ菌の除菌後,約10%程度に胃・食道逆流症(GERD:Gastro-Esophageal Reflux Disease)の発生がみられている。H・ピロリ菌の感染はGERDに対して攻撃的な作用と保護的な作用を有している。除菌後のGERD発症機序の詳細は不明だが,除菌による胃酸分泌能の亢進,酸分泌抑制作用をもつサイトカイン等の炎症物質の消失,酸中和作用を有するH・ピロリ菌が産生するアンモニアの消失,体重増加による腹圧の上昇,下部食道括約筋の静止圧の低下などの原因が考えられている。GERDは軽症例が多いが,胸焼け等の症状が持続する場合は,HブロッカーやPPIの投与が有効である。

Q:フェニルプロパノールアミンを含有する製品の処方が,プソイドエフェドリンに変更になったが,プソイドエフェドリンとは何か?(薬局)

A:

フェニルプロパノールアミン(PPA:phenylpropanolamine)は出血性脳卒中を起こす危険性があることから,プソイドエフェドリン(PSE:pseudoephedrine) への切り替えが行われた。PSEはPPAと同様に交感神経興奮薬で,α作用による血管収縮作用により鼻粘膜の充血や腫れを抑え,鼻づまりを改善する。エフェドリンの立体異性体(stereo isomer) で,作用はエフェドリンとほぼ同じだが,昇圧作用や中枢作用はエフェドリンよりやや弱いとされている。

Q:亜鉛華軟膏と亜鉛華単軟膏の違いは?(薬局)

A:

いずれも酸化亜鉛を主成分とし,亜鉛華軟膏では20%,亜鉛華単軟膏では10%および20%を含有する油脂性基剤の軟膏である。効能・効果は同じで,次の特徴を有する。酸化亜鉛の含有量が多いと長期使用で皮膚の乾燥を招き,発赤,瘙痒が再現してくることがある。


処方内容 特徴
亜鉛華軟膏(局方)
酸化亜鉛200g,流動パラフィン30g,白色軟膏 適量,全量1,000g

(局方)白色軟膏:サラシミツロウ50g,ソルビタンセスキオレイン酸エステル(乳化剤)20g,白色ワセリン適量,全量1,000g
ワセリン系の白色軟膏(鉱物性基剤)。乳化剤を含有し滲出液の吸収性に優れているので,初期の滲出液が多い場合に用いる。
亜鉛華単軟膏(例)
酸化亜鉛100g,ジブチルヒドロキシトルエン(抗酸化剤,サトウサルベには含まれない)0.2g,単軟膏 適量,全量1,000g

(局方)単軟膏:ミツロウ330g,植物油(ダイズ油,ナタネ油等)適量,全量1,000g
植物油系の単軟膏(動植物性基剤)。患部の保護作用に優れている。肉芽形成後に用いる。

〔安全性情報等〕

Q:授乳婦に風疹ワクチンを接種しても大丈夫か?(薬局)

A:

米国において,授乳中の母親が弱毒生風疹ワクチンを接種すると,母乳中に風疹ワクチンウイルスが排泄され,授乳を受けた乳児の鼻咽頭からもウイルスが検出されたとの報告がある。そして乳児に一時的な抗体産生が認められるが,その値は低く,乳児に免疫を与えるには至らず,いずれも無症状でその後に抗体は陰性となった。また,授乳を受けた乳児が風疹ワクチンを接種しても影響がないことが確認されている。したがって授乳中の母親に風疹ワクチンを接種しても,授乳を中止する必要はないと考えられる。

Q:農薬ダイセン™を使用して気分が悪くなった患者がいるが,対処方法は?(医師)

A:

ダイセン™はジネブ剤で,ジチオカーバメート(有機硫黄)系の殺菌剤である。野菜や果実類のほか,イモ類やタバコなど多種の病害防除に適用される。ヒトに対する毒性は低い(ラット経口 LD50>10,000mg/kg)。中毒症状は,発疹,瘙痒感,結膜炎,咳,痰などである。大量に内服した場合,消化管に対する刺激が強いので,下痢や嘔吐により体外に排泄される。中毒症状に対する特別な治療方法はなく,一般的な救急処置と対症療法となる。ただし牛乳による催吐は吸収を促進するので禁忌である。

〔行政・保険・その他〕

Q: 血液製剤を使用した場合の記録の保存は?(病院薬局)

A:

血液製剤は特定生物由来製品で(薬事法第2条第10項),20年間の記録保存が必要である(第68条の9第3項)。使用対象者の氏名・住所,製品名,製造番号または記号,使用年月日等の記録をし,使用日から起算して少なくとも20年間保存する(平成15年7月30日,改正薬事法が施行)。

Q:麻薬処方せんで,通常の処方せん記載事項の他に必要な項目は?(薬局)

A:

処方せんの備考欄に,麻薬施用者の免許番号と患者の住所の記載が必要である。

Q:経過措置品目とは何か?(医師)

A:

医療の需要がないなどの理由で製薬会社が供給を停止したり,医療事故防止等を目的として名称表示が変更された医薬品等は,医療機関の在庫や周知期間を考慮して,直ちに薬価基準から削除とはならずに経過措置期間が設けられる。これらの医薬品を経過措置品目と称し,経過措置期間は保険適用される。経過措置品目と経過措置期間は厚労省告示により指定されるが,期限後は薬価基準から削除される。

Q:ローヤルゼリーをアトピー性皮膚炎の中学生の孫に飲ませたいが,どうだろうか?(一般)

A:

アトピーや喘息の既往歴がある人は,各種アレルギー反応(瘙痒,蕁麻疹,湿疹,まぶたや顔の浮腫,関節炎,鼻漏,呼吸困難,喘息)が高い頻度で起きる。重篤な場合には,喘息発作に陥る,アナフィラキシー反応を引き起こし,死に至ることもある。喘息,アトピー患者には禁忌である。

(独立行政法人 国立健康・栄養研究所「健康食品」の素材情報データベースより)