薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2006年9月)

〔医薬品一般〕

Q:セロクラール™錠(酒石酸イフェンプロジル)を鎮痛に使用することがあるか?(薬局)

A:

セロクラール™錠は脳循環代謝改善薬だが,NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗作用を有している。NMDA受容体は中枢神経系に広く分布し,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の代表的な受容体のひとつである。グルタミン酸がNMDA受容体に結合すると,細胞内にCaイオンの流入が起こり,これが脊髄レベルの疼痛の感受性増大に関与している。セロクラール™錠はNMDA受容体拮抗薬として痛覚過敏を抑制するので,鎮痛補助薬として用いられることがある(保険適応外使用)。他のNMDA受容体拮抗薬(ケタミン等)と比較し,精神症状の副作用が生じにくい。

Q:硝酸イソソルビドやニトログリセリンの貼付剤等は,AEDの妨げにならないように使用部位を考慮するようになっているが,どこに貼付すれば良いか?(薬局)

A:

自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)の電極パッドを貼付剤の上に貼ると,金属成分を含んでいる貼付剤では電流のブロックによる効果減弱や,皮膚の熱傷が起こる可能性があるため,AED使用の際には患者胸部に貼られた貼付剤を直前に剥がすように指導されている。しかし緊急場面では剥がすのを忘れる可能性もあるので,日頃からAEDの妨げにならない,前胸部を避けた部位に貼付することが望まれる。AEDの電極パッドは,右鎖骨すぐ下と左脇下の肋骨最下部の2ヶ所に貼付する。

Q:歯科領域で,PRPを用いた再生医療があるらしいが,どういう療法か?(薬局)

A:

PRPはPlatelet Rich Plasma(多血小板血漿)の略で,血液中の血小板を遠心分離させ,血小板を濃縮させた血漿である。成人の血小板数は12〜38万個/μL,平均で約20万個/μLだが,PRPにはその3.5〜4.5倍程度の高濃度の血小板が含まれている。PRPは血液凝固反応の過程で血小板が脱顆粒を起こし,顆粒中に含まれるPDGF(血小板由来成長因子),TGF-β(腫瘍成長因子),VEGF(血管内皮増殖因子),EGF(表皮成長因子)などの成長因子を創傷部に放出する。インプラントの埋め込み手術や親知らず抜歯後の治癒促進や歯周組織の再生に,患者本人のPRPが使用される。

Q:歯科でミオナール™錠が処方されているが,適応は?(薬局)

A:

ミオナール™錠(塩酸エペリゾン)は中枢性筋弛緩薬で,顎関節症(1日150mg 3×食後)に用いられることがある(保険適応外使用)。主に咀嚼筋障害を主兆候とする顎関節症J型(歯ぎしり・くいしばり等のいわゆる悪習癖と関連して発症することが多い)に用いられる。

Q:ピオクタニンとは塩化メチルロザニリンのことか?(薬局)

A:

塩化メチルロザニリンの別名がピオクタニンで,その他にクリスタルバイオレット,ゲンチアナバイオレットとも称する。薬価基準収載名は塩化メチルロザニリンであり,処方せんやレセプトにはこの名称を使用する。

Q: 市販のうがい薬に入っている塩化セチルピリジニウムの作用は?(薬局)

A:

塩化セチルピリジニウム(CPC)はカチオン界面活性剤(逆性石鹸)で,殺菌作用があり,歯周病や虫歯の予防,のどの炎症や痛みを抑えるなど,口腔内殺菌に用いられている。うがい薬の他に歯磨き剤,マウスウォッシュ,のど飴,トローチ等にも使用されている。

Q:薬の添付文書を見ると「成人」と書いてあるが,何歳から成人か?(一般)

A:

15歳以上が成人。小児は15歳未満,幼児は7歳未満,乳児は1歳未満,新生児は出生後4週未満,未熟児はWHOで定められている低出生体重児(2,500g未満)に区分されている。

〔安全性情報等〕

Q:キネダック™錠を服用している糖尿病患者の尿が赤っぽくなったらしいが?(薬局)

A:

成分のエパレルスタットは黄色〜橙色を呈するロダニン骨格を有し,また尿中に排泄される代謝物も同じロダニン骨格を有するので,尿が着色する。またアルカリ性になると赤紫色を呈するので,尿のpHによって黄褐色〜赤色に変色することがある。

Q:スピルリナを含有する健康食品で光線過敏症を起こす可能性はあるか?(薬局)

A:

スピルリナはアフリカ,メキシコ等の熱帯地方の高温・高塩分・高アルカリの湖に生育するらせん状の藍藻で,タンパク質を多く含み(100g中60〜70g),ビタミンAやビタミンB群,カリウム,鉄,クロロフィル,フィコシアニンなどを多く含む。クロロフィルaの分解物質フェオフォルバイドaやピロフェオフォルバイドaは光感受性を有し,これらが多量に生じた場合,光線に当たると,皮膚に浮腫や腫脹,紅斑,出血斑,潰瘍などの光毒性反応が発症する可能性がある。

Q:ワルファリン,降圧薬を飲んでいるが,レイシ(霊芝)を飲んでも良いか?(一般)

A:

レイシには血液凝固抑制作用があり,血液凝固抑制薬を服用していると出血傾向が高まる恐れがある。また,血圧低下作用もあるため,降圧薬を服用中は低血圧を引き起こすことがあり,注意が必要である。

〔行政・保険・その他〕

Q:新薬の特許期間は何年か?(一般)

A:

新薬の特許には物質特許,製法特許,製剤特許,用途特許がある。通常新薬の特許期間をいうときは物質特許期間の期間をいい,物質特許の期間満了に伴い,後発医薬品が出てくる。特許法による特許権の存続期間は,特許出願の日から20年である。医薬品は開発に10〜15年かかるので,製造承認され,上市後5〜10年しか開発者は販売を独占できない。開発者への補償制度として,特許期間延長制度により,申請すれば5年を限度に特許期間が延長される(特許法67条2項)。つまり新薬の特許期間は実際には20〜25年間(最大)となる。

 

Q:薬局は救急に用いる注射薬を,処方せんなしで救急救命士に販売できるか?(薬局)

A:

救急救命士が行う救急救命処置のために,救急救命士が配置されている消防署等の設置者に対し,救急救命処置に必要な処方せん医薬品を販売することは可能である。ただし,事前に医師等による書面での薬局等への販売指示を受けておくなどする必要があるが,販売毎の指示は必要ではなく,包括的な指示で良い。 

Q:遊離残留塩素,結合残留塩素とは何か?(薬局)

A:

水中の残留する塩素は遊離残留塩素と結合残留塩素に分けられる。遊離残留塩素は塩素(Cl),次亜塩素酸(HClO),次亜塩素酸イオン(ClO) のことで,水中のpHに応じて平衡状態を保っており,いずれも強い殺菌力を有し,殺菌力の指標となる。結合残留塩素とはモノクロラミン(NHCl),ジクロラミン(NHCl),トリクロラミン(NCl)などの窒素と塩素が結合した塩素で,水にアンモニアなどが含まれる場合,塩素系消毒剤とアンモニア性窒素が反応して生成する。弱い殺菌力を有しているが,水が汚染されると増加するので,汚れの指標として用いられる。

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