薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2006年10月)

〔医薬品一般〕

Q:向精神薬第1種に指定されているフェネチリンの作用は?(薬局)

A:

フェネチリン(fenethylline)はアンフェタミン類似のテオフィリン誘導体である。中枢興奮作用を有し,海外では小児の多動障害などに使用されている。日本での市販はないが,薬物乱用に使用され,密輸が増加している。

Q:サングラスをかけると日焼けしないのかと客から聞かれたが?(薬局)

A:

角膜が紫外線刺激を受けると,角膜に炎症が起き,紫外線から身を守るために三叉神経から視床下部に,さらに脳下垂体に刺激が伝達されて,メラノサイト刺激ホルモンが分泌され,皮膚メラノサイトでの色素合成が活性化されることがマウス実験で証明されている。従ってサングラスで角膜への刺激を避けることで日焼けを予防できると考えられる。

Q:高マグネシウム血症の症状は?(薬局)

A:

血清マグネシウム濃度が2.7mg/dL以上を高マグネシウム血症という。低マグネシウム血症に比べると発症頻度は少ない。症状は,倦怠感,低血圧,徐脈,呼吸抑制,構音障害,悪心・嘔吐,筋力低下,筋硬直などが現れる。心電図でP波消失,心室内伝導障害などがみられ,高度の高マグネシウム血症では心停止に至る。

Q:グラケー™カプセル(メナテトレノン)を骨髄異形成症候群に使うか?(薬局)

A:

骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndrome:MDS)は,貧血を主体に白血球減少や血小板減少を伴い,それぞれの血球系に多彩な形態や機能異常を示す後天的な造血幹細胞異常による疾患で,慢性進行性で難治性である。男性に多く,発症年齢のピークは60〜70歳代の高齢者疾患だが,小児も含め各年代にみられ,高率に急性骨髄性白血病を発症する。貧血による諸症状,白血球減少と好中球機能不全に伴う易感染症,血小板減少による出血傾向がMDSの主な症状だが,軽度の貧血から頻回の輸血を必要とする血球減少例まで多彩である。成因は不明だが,MDSにおける血球減少は,骨髄における血球の分化,成熟過程におけるアポトーシスを介した無効造血が原因と考えられている。根治療法は同種造血幹細胞移植以外には確立されていない。メナテトレノン(ビタミンK)は単独またはビタミンDと併用することで分化が誘導され,これと連動して抗アポトーシス効果が発揮される可能性があると考えられ,軽症のMDSに用いられることがある(保険適応外使用)。また,ビタミンKの投与により,低リスク患者の20〜56%で血球減少が改善した報告がある。

〔安全性情報等〕

Q:調剤事故,調剤過誤,インシデント事例の用語の定義は?(薬局)

A:

調剤事故:医療事故の一類型。調剤に関連して,患者に健康被害が発生したもの。薬剤師の過失の有無は問わない。

調剤過誤:調剤事故の中で,薬剤師の過失により起こったもの。調剤の間違いだけでなく,薬剤師の説明不足や指導内容の間違い等により健康被害が発生した場合も,薬剤師に過失があると考えられる。

インシデント事例(ヒヤリ・ハット事例):患者に健康被害が発生することはなかったが,ヒヤリとしたり,ハッとした出来事。患者への薬剤交付前か交付後か,患者が服用に至る前か後かは問わない。

(日本薬剤師会編 薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル2006年より)

Q:プラセンタを注射した人が献血できないのはなぜか?(薬局)

A:

血液から変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)を検査する方法が実用化されていないため,vCJD伝播のリスクが否定できない人(特定の期間に1日以上英国滞在歴のある人,輸血およびヒト臓器に由来する臓器移植を受けた人)からの献血は制限されている。 プラセンタ(ヒト胎盤エキス)注射剤によるvCJD感染事例は報告されていないが,ヒト由来の臓器から製造されており,理論的なリスクが否定できないことから,念のための措置として問診により献血が制限されることとなった(平成18年10月10日より)。なお国内では,メルスモン™注射薬(メルスモン)とラエンネック™注射薬(日本生物製剤)の2製品が医療用医薬品として承認されているが,美容目的(シミ,シワ,ニキビ等)に保険適応外使用されている。

Q:防水スプレーによる中毒症状は?(薬局)

A:

防水スプレーの成分は撥水剤(ほとんどはフッ素樹脂),有機溶剤,噴霧剤のLPG(液化石油ガス)などである。フッ素樹脂の粒子径が小さく対象物への付着率の低いものは,空気中に飛散し吸入されやすく,肺の深部に到達して障害を起こす可能性がある。粒子径が大きいものは対象物への付着率が高く,ほとんど中毒事故は発生していない。中毒症状は咳,呼吸困難,肺水腫,肺炎などの呼吸器症状,嘔気・嘔吐,発熱が著明で,吸入後比較的早期(1時間以内)に発症する。中毒発生時はまず新鮮な空気の補給を行い,胸部X線撮影により病態を把握する。酸素吸入,喀痰排出促進などの対症療法を行い,必要に応じて抗生物質や気管支拡張薬を投与する。副腎皮質ステロイドの効果は不明だが,呼吸不全の進行が著しく,間質性肺炎を発症した場合には使用を考慮する。密閉した室内や自動車内など換気が悪い場所で大量噴霧した時に中毒事故が発生しているが,換気が良好でも発生することがある。防水スプレー使用時は屋外で風下に向けて噴霧し,吸入しないように注意が必要である。

〔行政・保険・その他〕

Q:レセプトの処方欄に記載する場合,外用薬や注射薬の用法の記載は必要か?(薬局)

A:

「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」等の一部改正について(保医発第0929002号,平成18年9月29日)により,外用薬や注射薬については医薬品名,用量(投薬全量)を記載し,剤形および用法については省略しても差し支えない,となっている。

 

Q:評価療養とは?(薬局)

A:

平成18年10月1日より「特定療養費制度」が廃止されて,「保険外併用療養費制度」に改められ,「評価療養」と「選定療養」に再編成された。

評価療養:将来的に保険給付の対象とするべきかどうかについて適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養。先進医療,医薬品や医療機器の治験に係る診療,薬価基準収載前の承認医薬品の投与,保険適用前の承認医療機器の使用,薬価基準収載医薬品の適応外使用が該当する。

選定療養:患者(被保険者)自らが希望して選び,保険導入を前提としない療養。特別の療養環境の提供(差額ベッドへの入院),予約診療,時間外診療,制限回数を超える医療行為等が該当する。

Q:向精神薬第1種,第2種の譲渡・譲受の記録,麻薬帳簿の保存期間は何年か?(薬局)

A:

第1種および第2種向精神薬を譲り受け,譲り渡し(患者への交付を除く),または廃棄したときは,その品名・数量,年月日,譲受けまたは譲渡しの相手方の営業所等の名称・所在地を記録し,記録の日から2年間保存しなければならない。麻薬の譲渡(患者への交付)・譲受や廃棄,事故の際には,麻薬帳簿に品名,数量,年月日等を記載して,最終の記載日から2年間保存することが義務付けられている。

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