薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2007年2月)

〔医薬品一般〕

Q:H受容体拮抗薬のアシノン™(ニザチジン)を口内乾燥症に使うことがあるらしいが,作用機序は?(薬局)

A:

唾液腺は交感神経と副交感神経の二重支配を受けており,副交感神経が刺激されると水様で多量の唾液が分泌される。ニザチジンは副交感神経終末でアセチルコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンの濃度を上昇させ,唾液腺のムスカリン受容体を刺激して唾液分泌を促進する作用を有する。ただし口内乾燥症には保険適応外使用である。

Q:気管支喘息の治療にメトトレキサートを使うことがあるか?(薬局)

A:

ステロイド依存性の難治性喘息に対し,免疫抑制作用を有する葉酸代謝拮抗薬のメトトレキサートを週1回,5〜15mg用いることがある(保険適応外使用)。気道粘膜へのTリンパ球や好酸球の浸潤を抑制することにより気道の炎症を抑制し,ステロイド減量の可能性があるが,有用性は未確立である。

Q:認知症治療薬のトラミプロセートは日本で使われているかと患者から聞かれたが?(薬局)

A:

トラミプロセート〔tramiprosate(3APS:3-amino-1-propanesulfonic acid)〕は,アルツハイマー病の原因と言われ神経細胞に毒性を持つβアミロイド蛋白が脳内に蓄積するのを抑制する。商品名はAlzhemed(アルゼメド)で,カナダで開発され,現在,カナダ,アメリカおよびヨーロッパで臨床試験中であるが,日本では行われていない。

Q:リウマチ治療薬のヒュミラ™が発売されるそうだが,メーカーは?(一般)

A:

ヒュミラ™は完全ヒト型抗TNFαモノクロナール抗体で,生物学的製剤。成分名はアダリムマブで,アボットとエーザイが共同開発し,現在関節リウマチで申請中,尋常性乾癬,クローン病で臨床試験中である。自己免疫疾患の炎症反応に関与するサイトカイン(TNFα)を中和することで作用を発現する。2週間に1回の皮下注射。

Q:尿酸値が高い患者に使用する降圧薬は何が良いか?(薬局)

A:

アンジオテンシンK受容体拮抗薬(ARB)のロサルタン(ニューロタン™)は健常者および高血圧患者に投与すると,尿酸排泄量を増加し,血清尿酸値を低下させることが明らかとなっており,高尿酸血症を合併した高血圧症患者への第一選択薬である。これはロサルタンの未変化体が,尿酸再吸収をもたらす腎の尿酸トランスポーター(URAT1)を阻害するためと考えられ,他のARBにはみられない作用である。その他,α1遮断薬,長時間作用型Ca拮抗薬,ACE阻害薬も尿酸値を低下させる。αメチルドパや他のARBは尿酸値に影響せず,逆に,サイアザイド系利尿薬,β遮断薬,αβ遮断薬は尿酸値を上昇させる。

Q:球形吸着炭のクレメジン™は食後に服用しても良いか?(薬局)

A:

慢性腎不全用薬のクレメジン™は,消化管内で尿毒症毒素を吸着し糞便中に排出除去して,尿毒症症状の改善や透析導入を遅延させる。腎不全患者はクレメジン™のほかに種々の薬剤を併用している場合が多く,他剤を吸着して効力低下の可能性があるため,他の薬剤との同時服用は避ける。食後と食間投与でのクレメジン™の効果に差はない。また,クレメジン™は分子量100〜1000の低分子量物質に選択的吸着特性を示し,消化酵素の吸着は低いため,栄養素の消化吸収には影響しない。 

Q:一般用医薬品の鼻炎薬の成分でダツラエキスとは?(薬局)

A:

ダツラ(Daturae Folium)〔マンダラ葉,曼陀羅葉〕はヨウシュチョウセンアサガオ,シロバナヨウシュチョウセンアサガオの花期に葉を乾燥したもの。成分はトロパン型アルカロイド(0.2〜0.7%)でl-hyoscyamine(エステル部分がラセミ化してdl-hyoscyamineとなったものがatropine)がほとんどである。副交感神経遮断作用を有し,鼻炎薬には鼻汁の分泌抑制を目的に使用される。 

〔安全性情報等〕

Q:一般用医薬品の鼻炎薬の成分で,高血圧症の人に注意が必要な成分は何か?(薬局)

A:

血圧上昇作用がある塩酸プソイドエフェドリン,硫酸プソイドエフェドリンを含有する製剤は禁忌で,塩酸フェニレフリン,dl-塩酸メチルエフェドリン,l-塩酸メチルエフェドリン,塩酸メトキシフェナミンを含有する製剤は,服用前に医師または薬剤師に相談する。また,グリチルリチン酸等を1日最大配合量がグリチルリチン酸として40mg以上または甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤は,偽アルドステロン症による血圧上昇があるため注意が必要である。

Q:霊芝(レイシ)と医薬品の相互作用は?(薬局)

A:

霊芝は北半球の温帯広葉樹林に見られるキノコ類で,一般的にはサルノコシカケの一種であるマンネンタケのことを霊芝と呼んでいる。古来よりがんに有効と伝承されて民間薬として用いられているが,ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。抗血液凝固作用を有するので,抗血小板薬やワルファリンとの併用による出血傾向の可能性があり,また降圧薬との併用で低血圧を引き起こす可能性が報告されている。

〔行政・保険・その他〕

Q:平成19年2月3日施行で,麻薬指定された「メチロン(Methylone)」とは?(医師)

A:

フェネチルアミン系薬物2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)プロパン-1-オンで,ドパミンに類似した骨格を有し,幻覚,興奮作用を示す。違法ドラッグとして俗称「メチロン」で流通していたが,この度麻薬に指定され,輸入,輸出,製造,製剤,小分け,譲り受け,譲り渡し,所持,施用が全て禁止された。医薬品の解熱鎮痛薬メチロン™末・坐・注(成分スルピリン)とは全くの別物であり,混同しないように注意を要する。

Q:うがい薬(ポビドンヨード)の水溶液にお茶やレモン汁を加えると,うがい薬の色が消えると客から聞かれたがなぜか?(薬局)

A:

レモン汁やお茶に含まれるビタミンC(アスコルビン酸)は還元剤で,ポビドンヨード(ヨウ素)は酸化剤であり,両者が溶液中に存在すると酸化還元反応が起こる。ポビドンヨードは黒褐色を呈しているが,アスコルビン酸によりヨウ素が還元され,無色のヨウ化水素とデヒドロアスコルビン酸が生成され,色が消えてしまう。またお茶ではカテキンによる還元作用も考えられる。脱色した液には遊離ヨウ素が含まれず,殺菌効果は期待できない。

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