薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2007年9月)

〔医薬品一般〕

Q:シタロプラム(citalopram)とは何か?(薬局)

A:

抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)。日本での開発は中止され発売はない。シタロプラムの抗うつ活性は光学異性体のS体が有することが動物実験で確認され,S体であるエスシタロプラム(escitalopram)を持田製薬が臨床試験中である(2007年 PhaseL準備中)。

Q:コルヒチン(0.5mg 1×)およびセファランチン1%末(50mg 3×)という大学病院からの処方を受けたが,何の病気か?(薬局)

A:

ベーチェット病(Behcet's disease)の処方。ベーチェット病は原因不明の慢性再発性の全身性炎症性疾患で,特定疾患(難病)に指定されている。病態形成には何らかの内因と外因が関与し,Tリンパ球の異常反応に基づく白血球(好中球)機能の異常亢進(活性酸素産生・遊走)による炎症性の組織障害が中心と考えられている。口腔粘膜(口唇,頬粘膜,舌,歯肉,口蓋粘膜)のアフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,皮膚症状(結節性紅斑様皮疹,にきび様皮疹,皮下の血栓性静脈炎等),眼症状(ぶどう膜炎による失明率が高い)の4つの症状を主症状とする。コルヒチンは好中球機能抑制作用を有しており,治療薬としてよく用いられている。またセファランチンは白血球が産生する活性酸素を除去する作用を有し,口腔内アフタに用いられるが,いずれも保険適応外使用である。

Q:トリキュラー™錠28という薬で,自由診療で貧血を治療するらしいが,鉄剤か?(薬局)

A:

トリキュラー™錠28(バイエル)は三相性の低用量ピルで,適応は避妊である。避妊以外の副効用として,経血量の減少による月経困難症(月経痛)・貧血の改善,子宮内膜症の症状緩和,ニキビや多毛症の改善,中高年ではホルモン補充(更年期障害の症状改善,骨塩量の増加),卵巣がん・子宮体がんの予防(乳がん,子宮頸がんは禁忌)などがあり,保険適応外使用されている。

Q:神経ブロックなどに使う滅菌アルコールの市販品はあるか?(医師)

A:

市販品はないので,自家製剤により調製する。調製方法は以下のとおり。
クリーンベンチで99.5%エチルアルコール(試薬あるいは無水エタノール(局方品))をメンブランフィルターを用いて吸引(加圧)ろ過し,2mLのアンプルに1mLずつ充填する。アンプル熔封後,115℃,30分の高圧蒸気滅菌を行い,放冷後,異物検査する。

Q:漢方薬の効能で安神とは?(その他)

A:

安神(あんしん)とは精神を安定させることである。安神薬には,竜骨,牡蛎,酸棗仁,遠志,茯苓,小麦等があり,精神不安,不眠,いらいら等に用いる。

〔安全性情報等〕

Q: ビタミンEを摂取すると月経に影響するか?(薬局)

A:

ビタミンEには下垂体・副腎系に作用してホルモンの分泌を調節する作用があるので,一般用医薬品では,更年期障害の症状改善や月経不順に用いられている。時に月経周期が早まったり,経血量が増加することが報告されている。また,更年期の女性で閉経後も,卵巣機能が完全に停止してない場合には,視床下部・下垂体・卵巣系の機能が賦活され,再び月経が始まるということもある。これらは,ビタミンEにより内分泌バランスの調節が行われた結果として起こる一時的な現象であり,病的なものではない。

Q: 女性ホルモンを服用すると,にきびができやすくなるか?(一般)

A:

皮脂の分泌は女性ホルモンと男性ホルモンによりコントロールされている。女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)があり,プロゲステロンは男性ホルモンと同様に皮脂分泌を促進する作用があるので,プロゲステロンが過多になるとにきびができやすくなる。

Q:オコゼに刺された時の処置は?(病院)

A:

オコゼは刺した時に,棘にある毒腺から毒液を注入する刺毒魚である。局所症状として痛み,腫脹,しびれ,全身症状として重症では,嘔気,嘔吐,下痢,腹痛,呼吸困難,低血圧,ショック等が現れる。処置は,傷口を洗浄し,棘が残っている場合は除去し,棘が残っていないかレントゲン検査で確認する。魚の棘毒はタンパク質で非常に不安定で,化学的性状はあまり解明されていないが,熱で急速に分解するので,できるだけ熱い湯(45℃以下)に痛みがとれるまでを目安に浸す。初期の湯浸を行わなかったり,遅れた時はアスピリン,麻薬,局所ブロック等による鎮痛,重症では呼吸・循環管理を行う。

Q:原子力災害時のヨウ化カリウムの予防内服の方法は?(行政)

A:

原子力災害時に放出された放射性ヨウ素の吸入による甲状腺への内部被曝の阻止や軽減に,安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウムの丸薬および内服液)の予防内服が行われる。対象者は新生児から40歳未満である。子供ほどヨウ素を甲状腺に取り込みやすいが,40歳以上では放射性ヨウ素被曝による甲状腺がんの発生リスクが増加しないため服用の必要はない。効果は少なくとも1日は持続するので,服用は原則1回とし,服用後は安全な場所に避難する。

対象者
用量
新生児 ヨウ化カリウム16.3mg(ヨウ素12.5mg)
生後1ヶ月以上3歳未満 ヨウ化カリウム32.5mg(ヨウ素25mg)
3歳以上13歳未満 ヨウ化カリウム50mg (ヨウ素38mg)
13歳以上40歳未満 ヨウ化カリウム100mg(ヨウ素76mg)
40歳以上 不要。
ただし40歳以上の妊婦には胎児の被爆の阻止・軽減のため,
ヨウ化カリウムを100mg(ヨウ素76mg)投与。

〔行政・保険〕

Q:ニコチネル™TTSで禁煙治療を行っている医療機関はどこか?(薬局)

A:

「ニコチン依存症管理料算定医療機関」であれば,健康保険による禁煙治療が可能である。全国の登録病院が日本禁煙学会のホームページに掲載されている。

また,ノバルティスファーマのホームページ

にも禁煙治療を実施している病院が紹介されているが,すべてが「ニコチン依存症管理料」登録病院ではないので,詳細は各医療機関へ確認する必要がある。

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