薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2007年10月)

〔医薬品一般〕

Q:爪白癬の内服薬による治療は,爪病変が完治するまで続けなければならないか?(薬局)

A:

爪白癬の治療は抗真菌薬の内服が第一選択となる。グリセオフルビンは静菌作用で,爪が完全に生え替わるまで内服する必要がある(手の爪は6ヶ月〜1年,足の爪は1〜1.5年)。イトラコナゾールやテルビナフィンは殺菌作用で,薬が長期間爪の中に留まり服用終了後も効果が持続するので,爪の混濁が残存していても菌は死滅している可能性があり,治療を開始後3〜6ヶ月で,健康な爪甲が伸びるのを確認できたら投与を終了する。

Q:切れ痔の治療薬で内肛門括約筋を弛緩させる軟膏があるとインターネットでみたが,市販されているか?(一般)

A:

切れ痔(裂肛)は肛門縁より歯状線までの肛門上皮に生じた損傷(裂創,びらん,潰瘍) で,排便時に強い痛みを生じ出血することもある。従来は硬い便などで肛門上皮が損傷した時に起こるとされていたが,最近では,内肛門括約筋の緊張亢進が肛門管内圧の上昇と局所の血流低下をもたらし,肛門上皮に裂肛を生じると考えられている。ニトログリセリンは内肛門括約筋の収縮を抑制する神経伝達物質のNO(一酸化窒素)を供給して肛門管内圧を低下させるため,ニトログリセリン軟膏による裂肛の治癒が試みられている。市販の2%ニトログリセリン軟膏を1回0.1g(2mg),1日1〜2回,あるいは2%軟膏を白色ワセリンで0.2〜0.5%に希釈して1回0.5gを1日2〜3回,肛門周囲の皮膚に塗布して症状が消失した報告がある。軟膏の吸収を速めるので,肛門上皮や直腸粘膜には塗布しない(保険適応外使用)。

Q:注射でdivとは何か?(一般)

A:

点滴静脈注射(drip infusion in vein)の略語。

〔安全性情報等〕

Q:フェニトインを至適濃度内で投与していたが,コントロールが悪くなり少量増量したら急激に中毒量になってしまったが,どうしてか?(医師)

A:

通常,薬の血中濃度は投与量に比例して上昇するが(線形速度過程),フェニトインは非線形速度過程を示す。フェニトインは代謝酵素の量に限界があるため,一定量しか代謝できず,ある一定の投与量を超えると少量の増加でも急激に血中濃度が上昇して容易に中毒量に達する。特に有効血中濃度付近では起きやすい。代謝能力は個人差があるので,血中濃度のモニタリングを行いながら投与量を調節し,個々の症例に応じて慎重に投与する必要がある。

Q:ニトロール™(硝酸イソソルビド)を服用すると頭痛がするが,副作用か?(一般)

A:

ニトロール™は冠血管拡張作用を有し,狭心症に用いられているが,脳血管拡張作用に基づく拍動性頭痛を生じることがある。頭痛の発生頻度は高いが,通常は継続して服用していると数日から2週間で消失すると報告されている。対処方法としては,減量や中止あるいは鎮痛薬を併用する(エルゴタミンは禁忌)。

Q:逆流性食道炎の人はカルシウム拮抗薬を飲んではいけないのか?(薬局)

A:

カルシウム拮抗薬は下部食道括約筋を弛緩させる作用があり,逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)を惹起または悪化させる可能性がある。禁忌ではないが症状の変化を観察し,可能ならば他剤に変更する。

Q: 8歳児にプリビナ™点鼻液(硝酸ナファゾリン)を使いたいが,原液0.05%液を使用しても良いか?(薬局)

A:

点鼻用血管収縮薬は,小児には生理食塩液で2〜4倍に希釈したものを用いる。長期連用により頑固な点鼻薬性鼻炎を起こすので,強い鼻閉による不眠時や感染の合併症による急性増悪時などの緊急的な場合に限定し,使用期間は1週間位に止める。2歳未満の乳幼児には,作用が強く現れ,ショックを起こすことがあるので禁忌である。

Q:食器用洗剤を小児が誤飲したが,処置は?(薬局)

A:

食器用洗剤の液性は弱アルカリ性〜中性で,主成分は陰・非イオン界面活性剤(5〜50%)である。その他,補助剤として硫酸塩,リン酸塩,エチルアルコール,プロピレングリコールなどを含むものもあるが,含有量が少なくほとんど問題にならない。マウス経口LD50は,製品として5mL/kg以上である。陰・非イオン界面活性剤の中毒症状は,口腔・咽頭の炎症,悪心,嘔吐,下痢,腹痛,しゃっくり,鼓腸などが起こるが,小児の誤飲程度では製品としての毒性は低く,重篤な中毒は起こりにくい。牛乳(120〜240mL,幼児15mL/kg以下),卵白などを与え様子をみる。中毒量を誤飲した場合,1時間以内に嘔吐がみられる(嘔吐が激しい場合,泡が気道に入らないように注意)。大量誤飲時には,神経症状として運動麻痺,体温低下,痙攣,血圧低下が起こり,肝障害の報告もある。催吐し,一般的な中毒に対する処置と対症療法を行う。

〔行政・保険・その他〕

Q:指定医薬品とは何か?(薬局)

A:

指定医薬品とは,薬事法第29条に基づき厚生労働大臣の指定する医薬品であり,薬局または一般販売業において薬剤師により取り扱いを必要とし,薬種商販売業においては販売,授与または販売もしくは授与の目的で貯蔵しもしくは陳列することができない医薬品を指す。指定医薬品は,薬事法施行規則第155条で,毒薬,劇薬,抗菌性物質製剤,血液製剤,放射性医薬品,その他の医薬品に分類して定められている。

Q:船員に対し,船舶に備え付ける注射薬を販売しても良いか?(薬局)

A:

注射薬は処方せん医薬品である。処方せん医薬品については,病院,診療所,薬局等へ販売する場合を除き,薬事法第49条第1項の規定に基づき,医師等からの処方せんの交付を受けた者以外の者に対して正当な理由なく販売を行ってはならないが,船員法施行規則第53条第1項の規定に基づき,船舶に医薬品を備え付けるために,船長の発給する証明書をもって,同項に規定する医薬品を船舶所有者に販売する場合は,正当な理由のひとつであり,医師等の処方せんなしに販売を行っても差し支えない。

Q:膝の痛みに友人がヒアルロン酸を購入して飲んでいるが,効果はあるのか?(一般)

A:

ヒアルロン酸はβ-D-Nアセチルグルコサミンとβ-D-グルクロン酸が交互に結合した高分子多糖で,粘性が高く,動物の結合組織の成分である。皮膚,腱,筋肉,軟骨,脳,血管などの組織中にも広範に分布し,生体内では細胞接着や細胞の移動などを制御しているが,加齢とともに減少する。医療用医薬品として膝関節腔内に注入する注射薬が市販され,変形性膝関節症等に用いられている。しかし現段階では,独立行政法人 国立健康栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報による総合評価では,膝の痛み等に対し経口摂取によるヒトでの有効性については信頼できる十分なデータはないとしている。

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