薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2007年12月)

〔医薬品一般〕

Q: アクテムラ™(トシリズマブ:中外製薬)はリウマチに用いられるか?(薬局)

A:

アクテムラ™は,日本で創製された初めてのヒト化抗ヒトIL(インターロイキン)-6受容体モノクローナル抗体で,キャッスルマン病に用いられている。IL-6とその受容体の結合を競合的に阻害することによりIL-6の生物学的作用を抑制する。自己免疫疾患の関節リウマチにも効果が認められ,2006年4月には関節リウマチと全身型若年性特発性関節炎の治療薬としての追加適応を,厚生労働省に承認申請されている。また,2007年11月には中等度から重症の関節リウマチ症の改善として,米国FDAおよび欧州医薬品審査庁に承認申請されている。

Q:アリセプト™錠(ドネペジル:エーザイ)は1日10mgまで増量して良いのか?(薬局)

A:

従来「軽度および中等度のアルツハイマー型認知症」に適応が限定されていたが,2007年8月23日付けで「高度アルツハイマー型認知症」が追加承認され,用量が高度のアルツハイマー型認知症患者には,5mgで4週間以上経過後,10mgに増量(適宜減量)となった。10mg投与で消化器系副作用の発現率が高く,また10mgに増量後,比較的短期間で消化器系副作用が発現するので,注意しながら投与する。なお,適応拡大に伴い,3mg・5mg錠,3mg・5mgD錠,細粒0.5%に加え,10mg錠・10mgD錠の規格が2007年12月21日付けで薬価基準に収載された。

Q:甲状腺機能亢進症の治療で,ヨウ化カリウムはどんな時に投与されるのか?(一般)

A:

通常,ヨードの生理的摂取では,無機ヨードとして甲状腺に取り込まれ,甲状腺ホルモンの産生を促進するが,ヨウ化カリウムの大量投与では甲状腺のヨード取り込みを抑制し,ヨードの有機化を阻害して甲状腺ホルモンの産生を抑制する。速効性で,作用発現は抗甲状腺薬より早いが,作用持続は数日〜1週間で一過性である。したがって長期的な治療には用いられず,甲状腺クリーゼ,甲状腺亜全摘術の術前処置など,一時的に用いられる。

Q:セレネース™(ハロペリドール)からリスパダール™(リスペリドン)に変更したいが,等価換算は?(薬局)

A:

経口の抗精神病薬について,クロルプロマジン100mgと同等の力価を示した等価換算は次のとおり。()は換算値。

アリピプラゾール(4),オキシペルチン(80),オランザピン(2.5),カルピプラミン(100),クエチアピン(66),クロカプラミン(40),スピペロン(1),スルトプリド(200),スルピリド(200),ゾテピン(66),チミペロン(1.3),トリフロペラジン(5),ネモナプリド(4.5),ハロペリドール(2),ピモジド(4),フルフェナジン(2),プロクロルペラジン(15),プロペリシアジン(20),ブロムペリドール(2),フロロピパミド(200),ペルフェナジン(10),ペロスピロン(8),モサプラミン(33),モペロン(12.5),リスペリドン(1),レセルピン(0.15),レボメプロマジン(100)。

Q:血清クレアチニン値から糸球体ろ過量(GFR)を求める予測式は?(薬局)

A:

酵素法で測定した血清クレアチニン値(Cr)より,日本人用MDRD簡易式を用いて,推計GFR(eGFR)を求めることができる。GFR<60mL/min/1.73m2では正確だが,GFR≧60mL/min/1.73m2では低く推算されるため,腎機能を過少評価される可能性がある。

男性 eGFR(mL/min/1.73m)=175×Cr-1.154×年齢―0.203×0.741

女性 eGFR(mL/min/1.73m)=175×Cr-1.154×年齢―0.203×0.741×0.742

Q:ノロウイルス感染患者の汚物がついた衣類等の洗濯・消毒方法は?(薬局)

A:

汚物がついた物を取り扱う場合,取扱者を防護し,感染が拡大しないように,必ず使い捨てビニール手袋,マスク,エプロンを着用し,使用後はビニール袋等に入れ密封して廃棄する。消毒洗濯・消毒の手順は,@汚物が付着した衣類等は専用のビニール袋に入れて周囲を汚染しないようにする。A汚物を十分に落として,0.02%(200ppm)次亜塩素酸ナトリウム液に30〜60分間浸すか,85℃で1分間以上になるように熱湯消毒する。次亜塩素酸ナトリウム液は消毒薬(ピューラックス™,ミルトン™等)や家庭用漂白剤(ハイター™,ブリーチ™等)があるが,色落ちしたり布が傷むことがあるので注意する。B消毒後,他の物と分けて最後に洗濯する。

〔安全性情報等〕

Q: 骨粗鬆症でビスホスホネート(BP)系薬を服用している場合,どうして抜歯に気をつけなければいけないのか?(薬局)

A:

BP系薬の副作用として,難治性の顎骨壊死・顎骨骨髄炎が報告されている。その大半は静注された癌患者の抜歯等の歯科処置や局所感染に関連して発現しているが,静注に比べて頻度は低いが経口でも報告がある。リスク因子は,悪性腫瘍,化学療法,コルチコステロイド治療,放射線療法,口腔の不衛生,歯科処置の既往等である。BP系薬の投与を開始する場合は,事前に歯科治療を終了し,投与開始後は定期的な歯科検診が必要である。

Q:β刺激薬はどうして糖尿病患者には慎重投与なのか?(薬局)

A:

肝臓のβ2受容体刺激により,グリコーゲンの分解が促進する結果,血糖値が上昇する可能性がある。

Q:アスピリン喘息の患者で,医薬品以外に注意する必要があるものは何か?(薬局)

A:

食品・医薬品添加物のタートラジン(食用黄色4号),安息香酸ナトリウム,パラベン(防腐剤),亜硫酸塩(酸化防止剤),ベンジルアルコール(注射薬の無痛化剤,食品の香料),サンセットイエロー(食用黄色5号),アマランス(食用赤色2号),ニューコクシン(食用赤色102号),自然界のサリチル酸化合物(イチゴ,トマト,キュウリ,柑橘類,ブドウ等),香料,化粧品,防虫剤,防カビ剤などは発作を誘発する可能性がある。

Q:2歳の子どもがクレヨンを半分くらい食べたが,処置法は?(医師)

A:

クレヨンの成分は,ロウ(パラフィン,牛脂硬化油,ステアリン酸誘導体)63〜86%,体質顔料(炭酸カルシウム,タルク)5〜24%,顔料5〜31%である。水でふき取り可能な水性クレヨンはロウのかわりに界面活性剤が使用されている。顔料は,JIS規格で重金属などの有害物質(鉛,カドミウム,ヒ素)が0.02%以下に規定され,また固形材の中に封じ込められているので,消化管内で溶出する可能性は極めて低く,ほとんど無毒である。1本程度の誤食では,特に症状は認められず,積極的な処置は不要である(牛乳,脂肪食は溶出の恐れがあるので避ける)。大量の場合は,悪心,嘔吐,腹痛,下痢の可能性があり,催吐し,症状があれば対症療法を行う。クレヨンは子どもが使うことを前提に作られているので概ね安全性が高いが,輸入品の中には有害物質が含まれていることもあるので注意する。

〔行政・保険〕

Q:調剤済麻薬の廃棄・届出方法は?(薬局)

A:

麻薬処方せんにより交付された麻薬を,患者の死亡等により遺族等から譲り受けた場合は,麻薬小売業者(薬局開設者)自ら,もしくは管理薬剤師が,他の薬剤師または職員の立会いの下に廃棄する。廃棄は,焼却,放流,酸・アルカリによる分解,希釈,他の薬剤との混合等,麻薬の回収が困難で適切な方法で行う。廃棄後,30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」により都道府県知事に届け出る。さらに麻薬帳簿にその旨記載するか,廃棄用の補助簿を作成して記録する必要がある。

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