薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2008年9月)

〔医薬品一般〕

Q: うつ病にリスパダール™を使うことはあるか?(一般)

A:

非定型抗精神病薬のリスパダール™(リスペリドン)はセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)で,適応は統合失調症だが,うつ病にも使用される(保険適応外使用)。うつ病の治療において,初回の抗うつ薬に反応しない患者が40〜50%,作用機序が異なる複数の抗うつ薬の併用療法に反応しない患者が10〜20%存在する。Mahmoud RA らが実施した「治療抵抗性の大うつ病性障害に対するリスペリドン:無作為化試験」の結果によると,標準的な抗うつ薬の単薬での4週間投与に十分反応しなかった大うつ病性障害の成人患者274例に,リスペリドン1mg/日(数例で4週間後2mg/日に増量)もしくはプラセボを6週間追加治療したところ,リスペリドン投与群で改善効果が認められ,うつ症状の寛解率および治療に対する反応率が上昇した。

Q:インフルエンザワクチンの接種は,乳児は何ヶ月から可能か?(一般)

A:

1歳未満の乳児に対するワクチンの効果や副反応については十分な知見が得られていない。生後6ヶ月未満までは母親からの免疫が期待でき,またワクチンによって予防可能な抗体レベルまで上がるのは生後6ヶ月以上と考えられることから,通常は生後6ヶ月以上から接種が可能である。

Q:抑肝散という漢方薬が認知症に効果があるとTVで医者が言っていたが?(一般)

A:

抑肝とは肝を抑制するという意味で,漢方医学では肝の働きの病的な亢進は,怒り,興奮,多動,痙攣などの精神神経症状をもたらすと考えられ,それらを抑えることから抑肝散と名付けられた。生薬構成成分は,朮(白朮または蒼朮),茯苓,川芎,当帰,柴胡,甘草,釣藤鉤で,神経症,不眠症,ヒステリー,てんかん,夜泣き,小児疳症などに用いられているが,軽度〜中等度に進行した高齢の認知症患者の精神症状・問題行動(イライラ,易興奮性,攻撃的言動,幻覚,焦燥感,徘徊など)を改善して日常生活機能の改善効果が報告されている。作用機序は不明だが,釣藤鉤によるβアミロイド蛋白の重合抑制・分解促進作用,ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)活性の増強,神経細胞死の予防や,当帰がGABA(γアミノ酪酸)やセロトニン神経系に作用して鎮静作用をもたらすなどが示唆されている。

Q: ラテックスアレルギーの検査で,皮膚テスト(プリックテスト)用の抗原エキスはあるか?(卸)

A:

天然ゴムの樹液に含まれるタンパク質がアレルゲンとなるラテックスアレルギーは,即時型過敏症で,時にアナフィラキシーショックを起こし,致死的である。天然ゴム製品は,手袋,カテーテル・絆創膏等の医療用具,炊事用手袋,コンドームなどの日用品として日頃から接触する機会が非常に多い。最近は院内感染の予防のため医療従事者のゴム手袋の使用頻度が高く,欧米では罹患率が急速に上昇している。抗原エキスの市販はないので,ラテックス製品から抽出した溶液を用いる。ゴム手袋をきざんで試験管に入れ,これに生理食塩液を入れて1時間振とうさせた液を用いてプリックテストを行う。

Q:単シロップ1mLのカロリーは?(薬局)

A:

単シロップは1L中に白糖850gを含有する。白糖1gは4Kcalで,単シロップ1mLは3.4Kcalとなる。

〔安全性情報〕

Q:ワルファリンとビタミンCの相互作用は問題ないか?(薬局)

A:

ビタミンCの通常量(2g/日以下)では相互作用は起こらないと推測されるが,大量投与でワルファリンの効果が減弱した報告と変化しなかった報告がある。臨床効果への影響はないと思われるが,併用開始時および中止時には,血液凝固能の変動に注意する。

Q: 健康食品のケールと医薬品の相互作用は問題ないか?(薬局)

A:

ケールは地中海原産とされるアブラナ科の野菜で,緑葉カンラン,羽衣カンランなどの異名もある。キャベツの変種であるが,結球はしない。若い葉が「青汁」などに使用されている。ケールはビタミンKを多く含むので,ワルファリン療法中は青汁やジュースの摂取は注意する。可食部100g中のビタミンK含有量は,ケール(葉,生)210μg,キャベツ(結球葉,生)78μg,ほうれん草(葉,生)270μgである。またアセトアミノフェンやオキサゼパムとの相互作用では,グルクロン酸抱合を促進して代謝を早め,血中濃度が低下した報告がある。

Q:しみ抜きなどに用いられる石油ベンジンの毒性は?(薬局)

A:

石油系溶剤のベンジンはヘキサン,ヘプタンを主成分とし,その他ペンタン,芳香族炭化水素からなる混合物である。石油ベンジン(試薬)の沸点は50〜80℃で,しみ抜き用,洗浄用,塗料用に使用され,ベンジン(工業ガソリン1号)の沸点は30〜150℃で,白ガソリンとも呼ばれ,機械部品の洗浄やしみ抜き用,ドライクリーニングなどに使用されている。石油ベンジンのヒト経口重症中毒量は20〜30g(約27〜47mL),ヒト経口推定致死量は80〜100g(約108〜135mL),小児は10〜15g(約12〜23mL)の摂取で死亡することがあり,ヒト吸入推定致死量は3%・5分または約4mLである。石油ベンジンは他の炭化水素に比較して中枢神経抑制作用が強く,LD50 で比較すると,吸入は経口摂取よりも高い毒性を示す。肺,腸管,皮膚から容易に吸収され,粘膜刺激作用,末梢神経障害作用,中枢神経抑制作用(反射低下・亢進,意識障害,不穏,振戦等),心臓障害作用(心筋障害および伝達障害による不整脈),誤嚥による肺合併症(揮発性が高いので,誤嚥すると肺内で気化して窒息や気管支肺炎,肺浮腫を起こす可能性がある)を有する。

〔その他〕

Q:大麻(マリファナ)は使用してどのくらいの時間で作用が現れるか?(薬局)

A:

大麻取締法における「大麻」とは,大麻草(Cannabis sativa L.)およびその製品を言う〔ただし,大麻草の成熟した茎およびその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の種子およびその製品を除く〕。マリファナ(marijuana)は,大麻草の花,茎,種子,葉などを乾燥し切り刻んだ混合物で緑色,灰色や茶色をしており,乾燥したパセリを微塵切りしたように見える場合もある。紙で巻いてタバコの様にし,あるいはパイプに詰めて,火を点けて煙を吸うことが多い。大麻(マリファナ)の精神作用の主要活性成分はテトラヒドロカンナビノール(THC,最も作用が強い活性体はδ-9-THC)である。マリファナの経口摂取の場合,30〜60分後に作用が発現し,THCのTmaxは約3時間で,通常3〜5時間作用が持続する。マリファナを吸った場合には,作用発現が速く,Tmaxは30分以内で,作用持続時間は短く,通常1〜2時間で消失する。同じ量を経口摂取した場合に比較して,吸った場合には数倍から十倍程度のTHCが吸収されて血中に入る。吸収されたTHCの80〜90%は5日以内に体外に排出され,10〜25%は尿中へ,35%は便中へ排出される。THCや代謝物は,マリファナを吸った後,数週間は尿中から検出される。ただし常用者では,THCは排泄される前に血液中から体内の脂肪組織に蓄積され,体外からの摂取が絶たれたような時に脂肪組織から血液中に徐々に出て来るので,非常用者に比べて尿検出に時間がかかることがある。



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