薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2009年3月)

〔医薬品一般〕

Q: 筋萎縮性側索硬化症に脳保護薬のエダラボンが効果あるのか?(薬局)

A:

筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic lateral sclerosis)は運動神経細胞が徐々に消失し,筋萎縮と筋力低下により体が動かなくなる原因不明の進行性疾患である。最終的には呼吸も出来なくなり,人工呼吸器を装着しないと通常発症後2〜4年で死に至る難病で,特定疾患に指定されている。主に中年以降に発症し,男女比は2:1で男性に多い。現在,国内では治療薬としてグルタミン酸拮抗薬のリルゾール(リルテック™錠50)が発売されているが,有意な効果が乏しく,対症療法が中心となっており,根治療法はない。脳保護薬のエダラボン(ラジカット™注)は脳梗塞急性期に伴う神経症候,日常生活動作障害,機能障害の改善に用いられており,その作用機序はフリーラジカル(過酸化脂質,ハイドロキシラジカル)消去作用である。酸化ストレスが一因とされるALSに対する有効性が示唆され,ALSの病勢進展を抑制することが期待されており,効能追加の臨床試験中である(2009年1月29日現在,PhaseL,田辺三菱)。

Q:ファンギゾン™シロップをうがいで使用することはあるのか?(薬局)

A:

ファンギゾン™シロップはアムホテリシンBを10%(100mg/mL)含有する抗真菌薬で,消化管におけるカンジダ異常増殖に用いられる。また保険適応外使用ではあるが,外用のうがいとして口腔カンジダ症に用いられることがある。通常,50〜100倍希釈液(シロップ5〜10mLを500mLの精製水で希釈)を1回約50mL,1日3〜4回,できるだけ長く口内に含みうがい(または嚥下)する。なお,口腔カンジダ症に適応を有する医薬品には,フロリード™ゲル経口用2%(ミコナゾール)やイトリゾール™内用液1%(イトラコナゾール)の口腔内に含んだ後嚥下や,イトリゾール™カプセル50の食直後内服などがある。

Q:抗がん薬のイリノテカンが投与されている患者に炭酸水素ナトリウムとウルソ™錠が処方されたが,なぜか?(薬局)

A:

抗がん薬のイリノテカン(トポテシン™注,カンプト™注)の副作用である遅発性下痢の軽減を目的に使用されることがある。イリノテカンの活性代謝物SN-38は,グルクロン酸抱合体となり不活化されて胆汁排泄されるが,一部は腸内細菌により再び活性体のSN-38となり腸肝循環し,腸管細胞を障害して遅発性の下痢を生じる。その対策として,腸管や胆汁のアルカリ化と排便のコントロールを行い,SN-38の再吸収を遅らせ,排泄を促進すると効果的であるという報告がある。経口アルカリ化として炭酸水素ナトリウム(腸管内のアルカリ化),酸化マグネシウム(排便によるSN-38の排泄促進),ウルソ™錠(胆汁のアルカリ化とグルクロン酸抱合体の維持)が用いられる。

Q: ムコスタ™をがん化学療法により生じる副作用の口内炎にうがいで使用することがあるのか?(薬局)

A:

がん化学療法による口内炎の発生機序は明確ではないが,抗悪性腫瘍薬の直接作用で発生した活性酸素により口腔粘膜が傷害される一次性口内炎と,抗悪性腫瘍薬による免疫低下(白血球数の減少)が原因となり,細菌・真菌の局所感染等による二次性口内炎に大別され,実際にはこれらが複雑に絡み合っている。胃潰瘍や胃炎治療薬のムコスタ™(レバミピド)は,内因性プロスタグランジン増加作用ばかりでなく,活性酸素・フリーラジカル抑制作用を有しており,がん化学療法や放射線療法による口内炎に対する予防・治療薬としての有用性が示唆されており,うがい液を調製して使用することがある(保険適応外使用)。

Q:ペインクリニックでトレドミン™錠という薬をもらったが,どのような効果があるのか?(一般)

A:

抗うつ薬のトレドミン™錠(ミルナシプラン)は選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:Serotonin-Noradrenaline Reuptake Inhibitor)である。神経伝達物質のセロトニンおよびノルアドレナリンは下行性モノアミン神経系(下行性疼痛抑制系)の鎮痛機序に関与し,その機能低下により慢性疼痛が生じる。また慢性疼痛に内在するうつ状態が疼痛悪化の原因となっていることもある。トレドミン™錠は両者の再取り込みを阻害してうつ状態を軽減するとともに,脊髄における侵害刺激を制御して鎮痛効果を発揮する。変形性脊椎症,帯状疱疹後神経痛,がん疼痛,線維筋痛症,緊張性頭痛等に用いられる(保険適応外使用)。

〔健康食品・食品〕

Q: スクアレンの作用は?(薬局)

A:

スクアレンはトリテルペンの一つで,ステロール生合成の中間体として重要である。サメ類の肝油に多く含まれており,中でも深海性のアイザメの肝油は特に良質とされ,その成分であるスクアレンを深海ザメエキスと呼ぶことがある。俗に「肝機能を高める」,「免疫力を高める」といわれているが,ヒトでの有効性・安全性については信頼できるデータは見当たらない。皮膚への湿潤性や浸透性が高く,化粧品等の原料として使用されている。

Q: 煮豆を作る時に重曹を入れるのはどうしてか?(一般)

A:

アルカリによって豆の蛋白質が溶解し水分を吸収しやすくなるので,煮豆を作る時,豆を早く柔らかく煮るために浸し水または茹で水に重曹を入れることがある。ただしビタミンB1が分解されるので,栄養学的には重曹を使わずにゆっくり軟らかく煮る方が良い。また,多量に入れると味も悪くなるので,適量は豆の重量の約0.3%程度である。

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