薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2009年9月)

〔医薬品一般〕

Q:インスリン抵抗性指数HOMA-Rはどのように算出するのか?(薬局)

A:

HOMA-R(Homeostasis Model Assessment Ratio)は早朝の空腹時の血糖値と空腹時インスリン値を下記の計算式に当てはめて算出する。
        HOMA-R=空腹時血糖値(mg/dL)×空腹時インスリン値(μU/mL)÷405
数値が高いほどインスリン抵抗性が強く,判定基準は1.6以下が正常,2.5以上はインスリン抵抗性があると考えられる。14〜18時間の完全空腹での採血条件で評価の高いデータが得られ,空腹時血糖値が140mg/dL以上の場合は誤差が大きく,注意が必要である。またインスリン治療中の患者では評価できない。

Q:患者がピリンアレルギーと言っているが,ピリン系薬剤には何があるか?(薬局)

A:

ピリン系薬剤とは俗称で,ピラゾロン誘導体を基本骨格とする解熱鎮痛薬のアンチピリン,アミノピリン(市販なし),スルピリン,イソプロピルアンチピリンのことである。また類似構造であるピラゾリジン誘導体のフェニルブタゾン,オキシフェンブタゾン,ケトフェニルブタゾン,フェプラゾン,スルフィンピラゾン(いずれも市販なし)にもピリンアレルギーの場合は交差耐性があり,広義にはピリン系薬剤の範疇に入る。アスピリンはピリン系薬剤ではないが,名称から誤解していることが多く,薬剤の確認が必要である。

Q: デュロテップ™パッチ(フェンタニル)を貼付したまま入浴しても良いか?(薬局)

A:

貼付したままシャワーや入浴は可能であるが,加温すると皮膚温度や体温が上昇し,薬剤の放出量が増加して吸収が高まり血中濃度が上昇するので,極端に熱いお湯の使用や長湯は避ける。
熱がこもって皮膚の温度が上昇する可能性があるので,防水フィルムなどは使用しない。入浴中は貼付部位をタオルなどで強くこすらず,入浴後は貼付部位をタオルで強くこすらないように水分をふきとり,パッチが剥がれていないか確認し,剥がれていたら新しいものに貼り替える。ただし,入浴後すぐの貼り替えは体がほてり汗をかきやすいため避ける。また,サウナは皮膚温度を上げるので避ける。

Q: 爪白癬,陥入爪,爪の除去等に使用する40%尿素軟膏の調製法は?(薬局)

A:

処方例:尿素40g,精製ラノリン20g,白色ワセリン35g,白蠟5g,全量100g。

調製法:乳鉢で尿素を微粉化し,ラノリン,ワセリン,白蠟を湯煎,あるいは弱火で加熱して溶解し,そこに微粉化した尿素を混入してよく混ぜる。混ぜながら室温に冷やせば黄色のやや硬い軟膏が得られる。尿素の粉砕が不十分だと下に分離するので注意する。うまくできた場合は,少しざらついた感じがする。

用法・用量抜爪すべき爪の上に2〜3g塗布し,ガーゼで覆った後,指先全体にビニールやラップをかぶせ密封する。1週間〜10日後に軟化した爪甲を切除する。

〔安全性情報〕

Q:油脂中に含まれるグリシドール脂肪酸エステルは発がん性があるのか?(一般)

A:

グリシドール脂肪酸エステルはグリシドールに1個の脂肪酸がエステル結合したものである。主に油脂の製造工程(脱臭段階)で生成される副成物で,精製した一般の食用油にわずかに含まれる。グリシドール脂肪酸エステルは体内で消化・分解されて,グリシドールになる可能性が指摘されているが,グリシドールは国際癌研究機関(IARC)によって「人に対して発がんの危険性あり」と分類されている物質である。グリシドール脂肪酸エステルについては,現時点では根拠となる毒性試験データが十分ではなく,また体内でグリシドールにどの程度変換されて吸収されるのかは不明で,健康影響についてその安全性が評価されている段階である。

Q:肝機能障害時に使い易いベンゾジアゼピン系薬は何か?(薬局)

A:

ロルメタゼパム(エバミール™,ロラメット™等),ロラゼパム(ワイパックス™等)はグルクロン酸抱合で代謝されるので,肝臓への影響が少ない。

Q: ホウ酸は眼科領域のみの適用だが,昔は軟膏があった。使わない理由は何か?(薬局)

A:

ホウ酸およびその化合物(ホウ砂)は刺激の少ない緩和な殺菌防腐薬として軽い火傷やおむつかぶれ等に汎用されていた。健康な皮膚からはほとんど吸収されないが,粘膜,創傷面または炎症部位への長時間・広範囲の大量使用により吸収が増大する。細胞毒性があり,医薬品再評価-医療用その24(昭和60年7月30日,薬発第755号)により,ホウ酸軟膏,ホウ酸亜鉛華軟膏はそれぞれ「有用性がない」,「有効ではあるが配合意義が認められない」と判定され,ホウ酸軟膏,ホウ酸亜鉛華軟膏およびホウ砂グリセリンは日本薬局方および薬価基準から削除された。眼科領域の適用「結膜嚢の洗浄・消毒」のみに有効性が認められ使用が限定されている。

Q: 納豆は加熱したら,ワルファリンを服用中でも一緒に食べて良いか?(薬局)

A:

納豆はビタミンKを多く含み,さらに納豆菌は腸内でビタミンKを産生する。ビタミンKは熱に安定で,また納豆菌は芽胞を形成するグラム陽性好気性桿菌で,芽胞は加熱・乾燥・胃酸・胆汁酸に強く,死滅しにくい。芽胞を殺すには120℃,15分以上の高圧蒸気滅菌が必要である。加熱調理してもビタミンKによりワルファリンの効果が減弱する可能性があるため,ワルファリン療法中は納豆の摂取を避ける。

〔行政・保険〕

Q:医療費の領収書を紛失したが,薬局は領収書を再発行してくれない。(一般)

A:

領収書はすでに交付済みなので,再発行の義務はない。任意で再発行に応じる所もあるが,その際には「再発行」という表示を記し,日付は再発行日とする。

Q:投与期間に上限のある医薬品以外は期間に特に制限はないが,上限の目安は?(薬局)

A:

保険医療機関および保険医療養担当規則第20条に「投薬量は予見することができる必要期間に従ったものでなければならないこととし,〜」とあり,無制限に出して良いというわけではない。

Q:覚せい剤原料について帳簿の記録は必要か?(薬局)

A:

覚せい剤原料取扱者の指定を受けた薬局製剤製造業者でなければ帳簿記録の義務はないが,覚せい剤原料の移動や所在を明確にするとともに,事故等の発生を未然に防止し,管理の徹底を図るため,帳簿を備えて記録することが望ましい。口座は覚せい剤原料の品名および容器の容量ごとに別に設け,譲渡・譲受した品名,数量およびその年月日,事故の発生した品名,数量およびその年月日,廃棄した品名,数量およびその年月日を記録し,2年間保存する。

Q:タバコ(喫煙)による医療費等の経済的損失はいくらか?(地区薬剤師会)

A:

平成13年度厚生労働科学研究費補助金「たばこ税の増税の効果・影響等に関する調査研究報告書」によれば,直接費用として超過医療費が1兆3,086億円,火災による損失等が2,246億円,間接費用として労働力損失が5兆8,454億円,合計7兆3,786億円と推計されている。


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