薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2009年11月)

〔医薬品一般〕

Q:糖尿病治療薬グルファスト™錠(ミチグリニドカルシウム)は,毎食直前5分以内に服用となっているが,飲み忘れた時の対策は?(薬局)

A:

グルファスト™錠は膵β細胞のスルホニル尿素受容体への結合を介してインスリン分泌を促進する薬で,血糖降下作用は速効性で効果は短時間である(Tmaxは15分,T1/2は1.2時間)。毎食直前5分以内に服用となっており,食前30分に服用すると食前15分に血中インスリン値が上昇して食事開始時の血糖値が低下し,食事開始前に低血糖を誘発する恐れがある。また,食後の服用は速やかな吸収が得られず効果が減弱する。食事中に飲み忘れに気づいた時はすぐに服用し,食事中以外の時に気づいた場合は服用しない。

Q:C型肝炎で肝硬変である。口腔扁平苔癬がなかなか治らず,セファランチンという薬を処方されたが,効果はあるのか?(一般)

A:

HCVの長期持続感染は肝硬変や肝細胞癌などの重篤な疾患を引き起こすほか,肝臓だけではなく多彩な肝外病変を発現し,口腔扁平苔癬はそのひとつである。口腔内では白血球が絶えず浸潤し,活性酸素を産生して生体防御を行っているが,口腔扁平苔癬ではその機能が強いと考えられる。第一選択薬は副腎皮質ステロイドだが,糖尿病や高血圧症等の合併症を有する高齢者等で副腎皮質ステロイドが使用しにくい患者等には,活性酸素除去作用や,細胞膜安定化作用,微小循環改善作用による組織修復促進作用等を有するセファランチンを用いることがある(保険適応外使用)。

Q: 高カロリー輸液でカリウムを含まない製剤はあるか?(病院)

A:

ハイカリック™RF輸液(テルモ)は,腎不全等による高カリウム血症,高リン血症またはその恐れのある患者に用いられる高カロリー輸液用基本液である。カリウム,リンを配合せず,必要最小量の各種電解質(ナトリウム,マグネシウム,カルシウム,クロール,亜鉛)を配合し,適宜補給が可能である。

Q: 透析の患者さんに活性型ビタミンD製剤のアルファロール™が処方されたがなぜか?(薬局)

A:

腎機能障害により,ビタミンD活性化の律速反応である1α水酸化酵素活性が抑制され,血中の活性型ビタミンDである1α,25-ジヒドロキシビタミンD[1α,25-(OH)]濃度の低下が認められる。その結果,腸管からのカルシウムの吸収が低下するので活性型ビタミンD製剤が投与される。通常のビタミンD剤では無効。

Q:インフルエンザにかかって学校を休んだ場合,いつから登校できるか?(一般)

A:

学校保健法施行規則に定められる学校伝染病にかかると,出席停止の措置がとられる。第1種学校伝染病である新型インフルエンザ・鳥インフルエンザ(H5N1)は完全に治癒するまで(医師の判断),第2種学校伝染病である季節性インフルエンザは解熱後2日を経過するまでとなっている。ただし,病状により学校医やその他の医師により感染の恐れがないと認められた時はこの限りではない。

Q:テレビで,疲労にはFFという物質が関係あると言っていたが,何か?(薬局)

A:

東京慈恵医科大学の近藤一博教授グループはマウスの実験で,徹夜や運動直後に心臓や肝臓,脳などで急激に増え,休息後に減るたんぱく質を発見した。このたんぱく質は,人が疲れると体内で増殖するヘルペスウイルスに関係するたんぱく質で,元気なマウスに注射すると,車輪回し運動をほとんどしなくなり,疲労因子を意味する英語 Fatigue Factorからこのたんぱく質をFFと名付けた。

Q: 臍帯(へその緒)の消毒には何を使ったら良いか?(薬局)

A:

臍帯ケア方法に関する文献的検討によれば(坂木晴世ら:国立看護大学校研究紀要 7(1),26,2008.),微生物の定着は自然乾燥群と消毒薬群のいずれも有害な微生物の定着はみられず,また臍脱までの期間は,自然乾燥群とポビドンヨードやアルコール使用群とでは自然乾燥群の方が有意に短かった。臍帯ケアの消毒の要不要の結論は出ていないが,臍帯ケアには消毒薬としてアルコール,クロルヘキシジン(0.02〜0.05%以下),ポビドンヨードが使われている。ただし,ポビドンヨードは新生児が一過性甲状腺機能低下症になる可能性があり,特に皮膚の成熟が未熟な早産児の使用は注意を要する。

〔安全性情報〕

Q: PTPシートを誤飲した場合,X線に写るか?(薬局)

A:

PTP包装を誤飲した場合,大半は食道にとどまる。なかには胃や腸に停滞したり,そのまま肛門から排出されることもある。PTPの素材はほとんどがX線透過性が良好で,単純X線検査では発見できないので,食道や胃内に停滞している場合は内視鏡的に摘出する。幽門を通過して1週間以上も肛門から自然排泄されず便潜血が持続する時は回腸末端部の嵌頓を考慮し開腹が必要な場合もある。食道穿孔,食道潰瘍,胸膜炎等の重篤な合併症を生じ死亡例の報告もあり,早期発見,早期治療が大切である。

〔行政・保険・その他〕

Q:調剤された薬がいつも薬袋に入れて渡されるのはなぜか?(一般)

A:

処方せんに基づいて調剤された薬は薬袋または被包に必要事項を記載して投与するように規定されている。

 〔薬剤師法第25条〕薬剤師は,販売又は授与の目的で調剤した薬剤の容器又は被包に,処方せんに記載された患者の氏名,用法,用量その他厚生労働省令で定める事項を記載しなければならない。

 〔薬剤師法施行規則第14条〕法第25条の規定により調剤された薬剤の容器又は被包に記載しなければならない事項は,患者の氏名,用法及び用量のほか,次のとおりとする。@調剤年月日,A調剤した薬剤師の氏名,B調剤した薬局又は病院若しくは診療所若しくは飼育動物診療施設の名称及び所在地。

Q:トレハロースとは何か?(薬局)

A:

トレハロース(Trehalose)は,2分子のD-グルコースが結合した非還元性の二糖類で,きのこをはじめ種々の菌,酵母,昆虫等の広範囲の生物に存在し,生物のエネルギー源として利用され,さらに細胞やたんぱく質を乾燥から効果的に保護する機能を有している。デンプンの劣化防止や冷凍時のたんぱく質の変性防止などの目的で食品に利用されている。甘味はショ糖の50%だが,体内では消化吸収されエネルギー(4kcal/g)となる。一般に医薬品や食品添加物(製造用剤,低甘味料)として使用が認められている。俗に,「虫歯を防ぐ」などと言われているが,ヒトでの有効性・安全性については信頼できるデータはない。

Q:パルスイート™カロリーゼロは甘いが,糖尿病の患者の血糖値に影響しないか?(一般)

A:

パルスイート™カロリーゼロ(味の素〜大正製薬)は,糖アルコールのエリスリトール,アスパルテーム,アセスルファムカリウムが主な成分である。血糖値に影響が大きいのは単糖類や二糖類などの糖類であり,パルスイート™カロリーゼロ負荷による血糖値試験では,血糖値を上昇させないことと,血清インスリン分泌に影響を与えないことが明らかになっている。糖尿病や肥満症の人に適した病者用食品として,厚生労働省から特別用途食品,低カロリー食品として認可されている。


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