水道水による希釈で影響を受ける消毒薬

消毒薬の希釈には新鮮で品質の良い蒸留水や滅菌精製水を用いることが望ましい。しかし特殊な場合(粘膜や損傷皮膚への使用など)を除き,器具・器械や環境(室内等)などを消毒する時は常水で希釈している。
常水とは一般に水道水や井戸水を指し,ほとんどの医療機関は水道水を用いている。
ただし水道水には各種イオン物質,有機物質(少量の微生物を含む),コロイドなどの多くの不純物が含まれ,消毒薬によっては化学結合を起したり,化学成分の遊離による結晶や沈殿が見られ,殺菌力が低下することがあり,pHによる影響を受けて(水道水のpHは5.8〜8.6),消毒薬が活性化しないことがある。
器具,器械や環境(室内等)に用いる消毒薬で,水道水による希釈で影響を受けるもの,および水道水による希釈が可能なものは次のとおりである。

〔水道水による希釈で影響を受ける消毒薬〕

 抗菌活性が比較的緩和な消毒薬は,水道水で希釈すると含まれる少量の微生物により汚染を受けることがある。
 粘膜・損傷皮膚に用いる時は,必ず高圧蒸気滅菌したものを用いるか,滅菌精製水で用時調製する。経済的理由により水道水で希釈する時は,原則として希釈後24時間以内に使用する。24時間以上使う時には1/10量の消毒用エタノールを添加する。

@ 陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム,塩化ベンゼトニウム)

 各種イオンと配合禁忌が多く,Fe2,Ca2+,Mg2+などの存在で殺菌力が低下する。したがって塩類含量が多い水道水を使用する時には通常の1.5〜2倍の濃度で使用する。
 pHが酸性で殺菌力が低下するので,製品は弱アルカリ性となっている。

A グルコン酸クロルヘキシジン

 水道水に含まれる硫酸イオン(SO42-)の存在で,その濃度によっては,徐々に難溶性の沈殿(硫酸クロルヘキシジン)を析出し,殺菌力が低下する。また,炭酸イオン(CO32-),リン酸イオン(PO43-),Cl-,Ca2+,Mg2+,その他の重金属の存在でも沈殿を生じる。このため希釈水溶液を調製する場合は新鮮な蒸留水を使用するのが望ましい。
 また赤色に着色されているヒビテン液はCl-により赤色色素が還元され,発色しなくなり無色となる。しかし殺菌力には影響しない。
 最適pH域は中性付近で,pH8以上ではクロルヘキシジン塩基の沈殿を生じ効果が減弱する。

B 両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン)

 殺菌力はpHが中性〜微アルカリ性(pH8〜9)で最大で,酸性またはアルカリ性が強くなると低下する。

〔水道水による希釈が可能な消毒薬〕

 抗菌スペクトルが広くかつ抗菌力が強い消毒薬は,水道水で希釈しても含まれる少量の微生物による汚染を受けにくい。

@ クレゾール石けん液

  徐々に混濁して沈殿を生じることがあるが,殺菌力には影響しない。この時には上澄み液を使用する。
ただし希釈する水にアルカリ土類金属塩,重金属塩,第2鉄塩,酸類が存在すると変化することがある。

B ポビドンヨード(ただし粘膜に用いる場合は滅菌精製水で希釈)

  pHが酸性で殺菌力が強く,アルカリ性で弱い。

C 次亜塩素酸ナトリウム

  pHが酸性で不安定で,最適pH域は7〜9である。

D グルタラール(グルタルアルデヒド)

  pHがアルカリ性で分解しやすく,酸性で安定しているため,製品は弱酸性となっている。希釈時には殺菌力が最大となる最適pH域の7.5〜8.5に調整する。

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